企業取材レポート
企業レポート#16
株式会社茶のみ仲間 代表取締役 西上寛さん
【プロフィール】 江崎グリコ株式会社でマーケティングに携わった後、2012年6月に「株式会社茶のみ仲間」を起業。2013年11月、日本茶のある暮らしのお店「茶のみ」開店、2014年8月に自社ブランド商品「茶のみ」発売開始。2018年6月、旗艦店「THE TEA SHOP CHANOMI」をオープンした。
「日本茶が消滅する」危機感から起業
日本茶メーカーとして80種類以上の商品を製造・販売、日本茶カフェ「THE TEA SHOP CHANOMI」(金沢市)を運営する「株式会社茶のみ仲間」。社長の西上さんはサラリーマン時代、大手食品メーカー「江崎グリコ」で20年間にわたって営業戦略や販売促進、法律、財務、企画などマーケティングをたたき込まれた。同社では小麦など輸入原料を扱うことが多く、国産原料を扱うことがほとんどない。「国産原料を使った仕事をしたい」という思いが募った矢先の2011年3月11日、東日本大震災が発生。東京電力福島第一原発事故による風評被害で、日本茶の販売量が一気に冷え込んだ。
「このままでは日本茶が消滅してしまう。マーケティングのプロとして日本茶市場で役に立てるのではないか」。
西上さんはそんな危機感と使命感から起業を決意した。「日本茶を残したい」とはつまり、「市場を創造すること」である。良質な商品やサービスを提供することで新たな市場が生まれる。それはまさに西上さんが長年取り組んできたビジネスそのものだった。
「江崎グリコ」を退社した翌日の2012年6月21日に「株式会社茶のみ仲間」を起業、手始めに日本茶を取り扱う代理店としてスタートを切る。翌2013年11月には取扱商品のショールームや卸売業者や小売店を対象としたプレゼンルームとして金沢市押野に日本茶のある暮らしのお店「茶のみ」を開店した。和歌山県九度山町出身の西上さんが店舗の立地として金沢を選択したのは自身が金沢大学出身で妻の出身地だったことに加え、日本茶の主要産地と適度な距離感があってフリーハンドを保てること、古都のイメージや茶道人口が多い地域性などを考慮してのことであった。
自社ブランドのマーケティング戦略
起業と同時に準備を進めてきた自社ブランド商品「茶のみ」の発売を開始したのは2014年8月である。マーケティングのプロらしく、商品開発には慎重の上にも慎重を期した。全国の日本茶産地に足を運び、地形から地質まで丹念に調べ、それが日本茶にどんな影響を及ぼすかなどを見極め、生産者の生の声も聞いた。さらに日本茶マーケットを綿密に分析し、そこにどんな商品を投入すべきか熟考を重ねた末に、約40種類のデフォルト商品をラインナップしたのである。
むろん、良い商品をそろえたからといって売れるほど市場は甘くない。マーケティングのプロの本領発揮はここからである。「急須を持っている家庭は3分の1程度」と仮説を立てた西上さんは、ティーバッグを急須代わりの容器として使用する「袋茶」を自社ブランドの軸に据え、「急須でいれたお茶」と変わらないクオリティーの高い味を実現させた。パッケージには自立するタイプのスタンドチャック袋を採用。自立させることによって、商品を購入した人の家庭でより存在感を発揮してもらおうと考えたのだ。さらに日本茶といえば「緑色」が定番だが、「茶のみ」のパッケージは小売店の売場で埋没しないように商品の特性に応じてカラフルな色を使い分けるなど、消費者が思わず商品を手に取りたくなるストーリー性やワクワク感をプラスしている。
こうした発想は長く日本茶業界にいる人には少ないものだろう。その視野の広さと発想の豊かさはマーケティングを熟知した西上さんならではのものだったに違いない。そんな西上さんに、次々と魅力的な商品を生み出す発想の秘訣を聞いた。
「対象を徹底的に調べると、アイデアは自然と向こうから寄ってくる。アイデアは突然生まれるが、それはすべて必然なんです」
アイデアは生み出そうとする意志のある人に必ず訪れる、と西上さんは考えているのだ。
カラフルなパッケージが特徴的
前年比120%以上増で売上推移
自社ブランド「茶のみ」は発売からほどなく、市場から高い注目を集めていく。2014年には石川県産茶葉を使った「加賀煎茶」が県から「石川ブランド」として認定。続いて2015年には「弘法茶」が高野山真言宗総本山金剛峯寺の認可を受けて、日本茶メーカーとして全国で初めて高野山の土産物に採用された。弘法茶は弘法大師空海が体調管理に飲んでいたと伝わる茶で、高野山の近くで生まれ育った西上さんが由緒ある歴史にちなんで開発した。2016年には金沢市が中小企業の新商品を認定する「金沢かがやきブランド」に「上級袋茶シリーズ」が、2017年には飲食店検索サイト「ぐるなび」の「接待の手土産特選30」に「日本の茶産地・銘茶九種詰め合わせ」が選ばれている。
こうした多くの実績を背景に「茶のみ」の取扱店は全国展開するスーパーマーケットをはじめ全国に広がって、売上高は起業以来、毎年前年比120%以上増で推移している。2018年6月には「上質な日本茶をよりカジュアルに分かりやすく」をコンセプトに、金沢市富樫にフラッグシップショップ「THE TEA SHOP CHANOMI」をオープン。西上さんが選りすぐった宇治(京都府)・西尾(愛知県)・伊勢(三重県)・八女(福岡県)4産地の最高級茶「上抹茶」やこだわりのスイーツが女性客を中心に高い支持を集め、新しいスタイルを生み出す文化の発信基地としても機能している。
「THE TEA SHOP CHANOMI」店内
自社工場とFCビジネスで次の一手
西上さんは「カフェのオープンによって『株式会社茶のみ仲間』は新たなフェーズに移行した」と語る。2020年以降、金沢の近江町市場や首都圏に『THE TEA SHOP CHANOMI』出店を計画。2020年早々には自社工場の稼働開始も決定し、取引先から要望の高いペットボトルの製品化などを予定している。
「今後、国内外でカフェのフランチャイズチェーン展開を構想している。1号店の『CHANOMI』はスペシャル・プレイス、今後出店する2号店はFCを想定した汎用性の高いベーシック・ショップとなる」と次の一手を語る。
真田幸村が流刑された九度山で生まれ育っただけあって、西上さんは真田幸村を彷彿とさせる戦略家である。県内外の企業経営者から助言を求められることも多く、多忙な本業の合間を縫うようにマーケティングのアドバイザーとしても活躍中だ。クライアントの業態は多岐にわたり、経営者としての豊富な実践に基づくアドバイスによって、大幅な受注増など成果を上げた企業は少なくない。西上さんのマーケティング理論は日本茶のみならず、さまざまな分野で応用できることを証明している。