企業取材レポート

レポート#13

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TONE 代表 方野公寛さん

TONE

【プロフィール】
20代半ばでグラフィックデザイン事務所を設立。紙媒体、WEB、映像の企業広告などを手掛ける一方、2006年ごろから金沢21世紀美術館や金沢市民芸術村などでアートプロジェクトやワークショップを企画開催。「OUCHI」「ダンボール建築」「バカゲタ図工塾!クレイアニメ」「縄文人シリーズ/土偶をつくる」など多くの企画で好評を博し、イベントには毎回多くのリピーターが全国から集っている。

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バカゲタ図工塾!マジックロール (2017年12月/金沢市民芸術村アート工房)

「もっと面白いことがしたい」とアートプロジェクトを企画

企業広告を中心にアートディレクションやグラフィックデザインを手掛ける「TONE」を営む傍ら、金沢21世紀美術館の企画・運営や金沢市民芸術村アート工房のディレクターとしても活動する方野さん。デザイナーとして起業したのは20代半ばのことだった。起業当初から「やりたい仕事だけをする」というスタンス。経済的には厳しかったが、充実した日々だったという。

とはいえ、広告デザインは受注型の仕事が基本である。やりたい仕事だけを引き受けていたものの、やがて「もっと面白いことがしたい」という思いが募った。そこで、ワークショップやインスタレーション、アートパフォーマンスを行う「if blank」というアートユニットを立ち上げ、金沢21世紀美術館や金沢市民芸術村に対して自ら働きかけ、数々のアートプロジェクトやワークショップを実現させていった。

アートプロジェクトで転機になったのは、金沢21世紀美術館開館5年目の2009年に開催されたワークショップ『魅惑の果実』である。バナナとナスが合体した果実やブドウのような桃など、参加者とともに作った色とりどりの“空想の果実”を金沢21世紀美術館に実らせた。

ユニット名「if blank」の「blank」とは「空欄」のこと。「もし○○があったら」というコンセプトに由来するのだが、まさにそのコンセプト通りのアートプロジェクトとなった。 単にアートを鑑賞するだけではなく、参加者自らも創作に加わるスタイルを確立したこのワークショップ『魅惑の果実』は大きな反響を呼び、方野さんが手がけるアートプロジェクトは本格化していった。

なかでも、子どもから大人までが参加し、紙のキットに色を塗ったり、シールを貼ったりして未来のおうちを作るペーパーワークショップ「OUCHI2010」は、金沢21世紀美術館や金沢市民芸術村など県内はもとより、広島市現代美術館、大阪TACT/FEST(国際児童青少年芸術フェスティバル)など全国各地で開催されるヒット作となったのである。

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ダンボール建築 (2019年3月/金沢市民芸術村アート工房)

多くの人を巻き込んで、空間そのものをアートに

百人百様の作品が生まれてくるアートプロジェクトやワークショップを重ねるなかで、参加者たちの想像を超える作品にインスピレーションを受けた方野さんは、「みんなと作品を作り上げたい」と考えるようになる。その思いが結実したのが2019年、金沢市民芸術村アート工房全体をフルに活用した「ダンボール建築」である。

子どもも大人も、みんなが建築家となり、身近なダンボールを使って家をつくり、それが集積して街を構成する。展示空間そのものが一つの作品となり、設置場所などを含めトータル的に演出されたスケールの大きなインスタレーションとなった。
これらは方野さんが発想し、仕掛けた「面白いこと」である。しかし、「面白いことをやり続けるには、面白いことをバランスよくビジネスに転換することも不可欠である」と方野さんは言う。 それは言い換えるなら、ボランティアでは面白いことは続かない、ということなのである。

では、どのようにしてビジネスに転換させていくとよいのか。方野さんのメソッドはとても明快だ。その答えは「より多くの人を巻き込んでいく」こと。ただし、ターゲットにするのは大多数ではない。「10人中8人が『面白い』と思う企画ではなく、10人中1人か2人が『面白い』という企画を立てる」というのだ。いわばニッチを対象とするわけだが、その企画が本当に面白いものであれば、人は自然と集まってくる。事実、過去に手掛けたアートプロジェクトでは最大1500人もの人が県内外から集まっているのだ。

そしてもう一つ重要なのは、間口の広さだろう。たとえばいま、方野さんが興味を抱いている分野は、電気工事、太陽光発電、木版画、水、製本、小屋づくりと実に幅広い。一つ一つはニッチなテーマであっても、それがロングテールとなって繋がることで「メシの種」になる、と考えている。

多角的な視点を持ちつつ、自身の感性や経験を通して見つけた本当の「面白い」だけを、掘り下げ他者と共有することで、多くの感動や共感を生み出しているのである。

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OUCHI (2010年5月/金沢21世紀美術館) Photo_Tsuyoshi Ando

アイデアは2年間ブラッシュアップしてクオリティを高める

現在、今年で12回目を迎える2019年6月開催「100万人のキャンドルナイトin金沢市民芸術村2019」や、同8月に金沢21世紀美術館の会議室を山に見立てて登山を行う「マウンテンピーク」を準備している。このほかにも数々のアイデアを温めているが、実現するのは2年ぐらい先だという。アイデアをすぐに実行するのではなく、ブラッシュアップして、よりよいものに熟成させる時間が必要なのだ。

また、それはアイテム1つのクオリティをとっても同様だ。これまで手掛けてきたアートプロジェクトやワークショップで使用されたキットやグッズなどは、素材やディテールに至るまでグラフィックデザイナーとして培った細心の配慮と技術が施されている。
それがアートプロジェクトやワークショップそのもののクオリティを高め、参加者たちの達成感や満足感を高めるという好循環も生み出す。実際、たとえ子ども向けのワークショップであっても、大人も十分に楽しめる完成度を誇っているのだ。

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「お金にならない仕事」が自分を磨く

デザイナーを志す人たちにアドバイスを求めると、方野さんからこんな答えが返ってきた。 「まずは自分を信じて行動に移すことが大切。もし何をやりたいか分からない時は、自分を信じて好きなことを貫く。それが自分の個性となり、強みとなる。その時に、注意したいのがライバルのいない分野をしっかりと見極めることですね」。

グラフィックデザイナーは競合が多い言わばレッド・オーシャンだが、方野さんはアートプロジェクトやワークショップというブルー・オーシャンを見つけることで独自性を獲得した。
また、起業当初から一貫して作り続けているクレイアニメは、デジタル技術を駆使しながらもどこかアナログな温もりを感じさせてくれる。こうしたテイストはアートプロジェクトやワークショップにも通底しており、自身の個性ともなっている。

今後の目標は、“お金にならない仕事を増やすこと”だという。

「1~2割のお金にならない仕事を実現するためには、8~9割はお金を稼ぐ仕事をする必要があります。お金にならない仕事をやらないと決して『いい仕事』はできません。
自分を磨いてくれる1~2割の比率を、今後は3割ぐらいに増やしていきたいです。それが自分自身を前に進ませる原動力になると予感しています」。

誤解のないように付け加えるなら、「お金を稼ぐ」8~9割の仕事も「やりたい仕事」である。「お金になる仕事」と「お金にならない仕事」はあっても、それらはどちらも「やりたい仕事」であることは起業以来、一貫して変わらない。
旺盛な好奇心を持ち、興味の領域を広げることで「やりたい仕事」の幅もどんどん広げていく、それこそが方野さんの仕事のスタイルなのだろう。

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