企業取材レポート
レポート
谷田合金 株式会社
話し手:製造部 國近嘉章 統括部長
市内のものづくり企業の独自の技術や取り組みの情報を取材し発信することで、市内企業及びものづくり産業の発展につなげることを目指す企業取材レポート。
第12回は、「谷田合金株式会社」。聞き手は、村田智ディレクター。
鋳造と加工の一貫体制が、超短納期の試作開発を叶える
同社は、競技用自動車部品の試作開発や半導体製造装置部品の量産などにおける、アルミニウム合金とマグネシウム合金の精密鋳造と機械加工を手がけるメーカー。例えば、エンジン開発の分野では、様々な業界から部品試作の仕事の依頼を受けている。エンジン開発の現場は、テストが行われる日程が予め決まっており、短納期での発注が多くなりがちであるが、同社が柔軟に対応できるのは、鋳造から機械加工までの一貫生産を行う強みがあるからだ。 鋳造と加工は別々の会社が行うのが一般的だが、例えば加工段階でトラブルが発生した時に、鋳造の素材に問題があるとフィードバックの時間が余計にかかってしまう。その点、一貫体制の同社なら、もし何か問題が生じても素早い対処が可能になる。また、加工しやすいよう鋳造工程で工夫を施すこともでき、結果として納期を早められるというわけだ。
社内で全工程のスケジュールを立てるため、お客様への納期日の回答も早く、先方が急いでいる場合にも細かな調整対応が可能だ。一貫生産体制を構築したことは、様々なメリットをもたらしている。
オリジナルの生産管理システムを導入して、納期管理を強化
数年前に、独自の生産管理システム(TSS)を導入したこともまた、スピーディーな納品をより効率的にしている。工作機械(メーカー名)を社内システム画面上で検索すると、それにかかわる受注内容が表示され、工程のすべてが把握できる。各工程が終わるたびに完了数を入力する仕組みなので、現在、どの工程まで進んでいるのかといった状況を、全部署からリアルタイムに確認することができる。 また、システム画面上の負荷グラフ(稼働率を示すグラフ)を見れば、機械ごとに現在の仕事に対して1日あたり何時間稼動させれば納期をクリアできるかが判断できるうえ、機械の負荷の高さも確認できるため、負荷の低い機械にシフトさせて、機械の平準化を図っている。 2、3年前には、製造部内に生産管理課を立ち上げ、現在4名が担当している。生産の進捗状況の確認や納期管理を強化していかないと、効率化のために各部署のどこから着手していいのか把握できず、最悪の場合、お客様に迷惑をかけてしまう。工程が順調に流れていくための管理が重要なのだと、國近部長がシステム画面を見せながら説明してくれた。 また、以前は各課の課長が生産管理を兼務してきたため、各人が非常に忙しい状況だったが、現在は生産管理課がお客様窓口も引き受けており、生産工程のスケジュール調整がしやすくなっている。
砂型をつくれる3Dプリンターで、設計の自由度もアップ
同社では6、7年前にいち早く3Dプリンターを導入し、現在は2台を備える。導入時から社内で3D CADを使える社員がおり、データをもとに鋳型の作成を行っていた。データは、同社の協力企業である木型製造業者につくってもらうこともあったため、導入は比較的スムーズだったという。 試作開発において、従来はまず木型をつくる作業を行うため、場合によっては2週間から3週間も時間を要してしまうが、3Dプリンターではダイレクトに砂型をつくれるため、木型をつくる時間を省け、納期を短縮できる。 また、通常の型は、上型と下型にわけた中に砂を詰め込み、型を抜くと製品の形状が砂に転写される仕組みのため、木型を抜ける形状にしなければならず、色々な制約があったが、3Dプリンターの導入により、設計の型の自由度が大幅に広がったという。 例えば、薄い箇所があったり、微細なパイプがあったりといった複雑な形状の部品には、以前なら1本1本を別パーツでつくり、合体させて1つの形にするといった具合で、とてつもない数の型パーツと作業量が必要だった。今では、3Dプリンターの使用により、1体ものの砂型が生み出せるようになり、作業効率が飛躍的にアップした。
独自の技術が光る鋳造プロセスで、半導体や航空機の分野へ参入
部品の破損の原因になる、ピンホール(アルミ鋳物に生じる気泡)などの鋳造欠陥を大幅に抑えるという画期的な「TKS鋳造装置」も独自に開発した。それにより、素材の強度を上げることが可能となり、半導体やエンジン関連、航空機関連部品の製造にも使用されている。 半導体関連では、半導体製造装置の中にある真空チャンバーの容器などを製造している。従来は大きなアルミのブロックから削り出しており、中を削ったほとんどのアルミが無駄になっていた上、かなりの加工時間を要していたが、この鋳造技術を活かすことで、加工のために削る量も減り、圧倒的に時間が短縮できる上、コストダウンをしながら従来の性能を維持したものをつくれるようになった。 TKS鋳造装置は圧力の制御が可能なので、鋳造するスピードや力を調節することができるメリットもある。重力にまかせて金属が流れていく「重力鋳造」だと、アルミと比べて比重の小さいマグネシウムは流れる力が弱く鋳造ができないが、TKSで鋳造を行うと、圧力を制御して流し込める。そのため、レース用のエンジン関連の部品や航空機関連など、軽さを要求されるものに対して、マグネシウムの鋳物を活用できる。鉄道関連でも、もともとは鉄で対応していたものをアルミに変えたケースもある。とりわけ、ものを運ぶ乗り物は、素材が軽くなる分、省エネにつながる利点もあるというわけだ。
高付加価値のものづくりで、時代のニーズを先取りした最先端分野に挑む
同社では「職人技術のデータの蓄積と継承」「ITの活用」「大学との共同研究」という3つの戦略を打ち立て、最先端の分野への挑戦を続けている。 鋳造技術を活かして素材だけつくっていても、付加価値を生み出すことは難しいと考えた先代社長が機械加工をスタートさせた、機械加工の中でも、とりわけ難度の高いもの、新しいものに常に取り組んできた。 もともとは発電所や変電所で使われる電力プラントの鋳物製造からスタートし、その後、産業用ロボットに着手。この2本柱で長きにわたり経営を続けてきたが、国内外での価格競争の激化をきっかけに自動車関連、中でもモータースポーツのエンジン関連に参入した。鋳物と加工の技術力の高さが必要とされるが、価格競争の影響を受けない、高付加価値の分野と捉え、開拓しはじめたという。 同時に半導体分野にも着手。浮き沈みはあっても、スマートフォンなどに使われ、この先もなくならず伸びていく産業だと考えたからだ。さらに次に何をやるべきかを検討して、選んだのは航空機産業だった。大きな魅力は、5年先といった長期の安定した発注があること。しかも、国内を見渡しても航空機の鋳物を手がけるところは非常に少ない。それゆえ、航空機部品の鋳物を行える認証を取得できれば、仕事がおのずと集まってくるし、特に、官民ともに、高付加価値の価格で受注ができるというメリットがある。ニッチな産業であっても、今後も安定が見込める産業だと判断し、参入を決めた。 昨今、多くの自動車メーカーがガソリン用エンジンの開発から撤退する傾向にあり、エンジン関連の試作は減ってきていることを受け、その分航空機分野に注力している。今後は航空機のみならず、宇宙関連の仕事にもつながればと望んでいる。
トラブルを防ぎ、人材不足をカバーするIT化を図る
今後は、IoTの時代も踏まえ、人材確保が難しい現状を改善すべく、全ラインの自動化を進めていかなければならないと考えている。とはいえ、加工ラインは機械によって自動化しやすいが、鋳造の工程となると、どうしても手作業が多く難しさもある。それでも、設備投資を検討しながら、自動化を目指しているところだという。
機械を稼働させる工程でも改善を行っている。事前に人間が手打ちしてプログラムを作成する工程が半分を占めるため、例えばプラス・マイナスがわずか1つ違うだけでも、工場内で衝突事故が起こる可能性があり、機械破損のリスクもある。中でも一番困るのは、事故により作業者が心理的ダメージ(作業に恐怖心を憶えてしまう)を受けて会社を辞めていってしまうこと。そこで、手打ちのプログラムをやめて、プログラム作成も緩衝チェックもパソコン上でのシミュレーションを試みている。完成されたプログラムだけを機械に流すことで衝突事故を防ぎ、さらには社員の定着率を上げていきたいと考えている。
そのために役立つのは、パソコンで図面を作成し、プログラムをつくり上げる「3D CAD/CAM」システム。現在、担当メンバーは6人のうち4人が女性だ。今までは油を触らなければならない加工工場の現場は、女性には不向きと捉えていたが、CAD/CAMでのプログラム作成であれば女性にも担当しやすいと考え、人材を配置。実際、女性スタッフの知識や技術の吸収の早さ、確実な仕事ぶりに男性社員もまた刺激を受け、職場に明るい雰囲気や活気を生み出している。 これからも、より付加価値の高いものづくりのために、技術開発や現場の体制など様々な取り組みにおいて、常にレベルアップをはかり続け、事業をますます広げていく構えだ。
聞き手・文
村田 智(IT ビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、株式会社MONK 代表取締役)
◆谷田合金 株式会社 1962年、「谷田銅合金鋳造所」を創業し、銅の鋳造を行う。1979年「谷田合金株式会社」へ社名変更し、その後、鋳造と加工の一貫生産をスタート。現在は、アルミ合金・マグネシウム合金の精密鋳造と機械加工を手がける。自動車の汎用エンジンパーツや産業機械部品などの試作品のほか、産業用ロボット部品、半導体製造装置部品、航空機用部品と、事業を拡大させている。