企業取材レポート

レポート

北菱電興株式会社

話し手:総務部 高橋仁美部長、技術開発事業部 宮越祐子課長、若林達也主査

市内のものづくり企業の独自の技術や取り組みの情報を取材し発信することで、市内企業及びものづくり産業の発展につなげることを目指す企業取材レポート。

第7回は、「北菱電興株式会社」。聞き手は、村田智ディレクター。

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北菱電興株式会社

専用チューナーを内蔵した画期的な和楽器を自社開発

電気・電子機器の販売、各種制御機器、システム事業や設備事業などを幅広く手がける北菱電興株式会社が開発した「NEO-KOTO輝(ネオ-コトかがやき)」が、金沢市内の中小企業者が開発した優れた製品を金沢市が認定する「金沢かがやきブランド」の平成29年度大賞を獲得した。
同社は「NEO-KOTO輝」を開発するに際し、本来約180cmもの長さがある箏を誰もが扱いやすくするために、正派邦楽会 大師範である麻井紅仁子氏監修のもと、どこまでコンパクトにできるかをひたすら追求し、音色が悪くならない限界である100cmのサイズに辿り着いた。
箏柱(ことじ)を動かして音を調整する作業は難しいものだが、同製品は糸巻き(ペグ)を回すだけで容易に調整することができる。また、構造上、弦が切れるたびに職人による修理が必要となる箏とは異なり、自分で弦を交換でき、メンテナンスが楽に行えるようになっている。
加えて、糸の張力がかかるペグユニット(調弦を行うためのパーツ)の破損を考慮し、鋳物を採用。耐久性の高いものに仕上げた。 意匠デザインは、デザイナーを採用せずに自社で行っている。極力、箏本来の意匠の美しさを損なわないことを念頭に置いているが、小中高生が使うことを考慮し、角を落とすなど安全面でも工夫している。

改良版最大の特長は、調弦のためのチューナーを内蔵したことである。通常の別置きのチューナーは、例えば周波数を表示するものなど多機能のものが多く、初心者にとっては使い方がわからない機能や不必要な機能も含まれているため、学校教育向けにあえて機能をそぎ落としてシンプルにした。最もよく使われる「平調子」をはじめ、教育現場で必要なものが厳選された調子の中から選択でき、LEDライトの色を見ながら、糸巻き(ペグ)を回して調弦する。弦を弾きながら調整し、緑色に点灯したら整ったことがわかるようになっている。
箏には調子ごとにコード表があるが、その表を覚える必要がなく、また音を合わせるためにその音をもらう必要がないので、簡単に使えるのが大きな魅力。というのも、2001年の旧製品を使った実際の教育現場のリサーチでは、45分の授業のうち20分が調弦だけで終わってしまうという問題点が浮き彫りになった。一つひとつやらなければならない調弦は、先生の授業準備の負担が大きいという多くの声を捉え、改良版の開発へと結び付けた。

社長を中心とした挑戦を後押しする社風と社員の熱意が生んだ、スピード開発

同社がなぜ、オリジナル版を改良することになったのか。
同社開発事業部の統括部長が、元々知り合いだった麻井氏の「もっと箏を普及させたい」という熱心な想いに触れ、意気投合したことが「NEO-KOTO輝」プロジェクト立ち上げのきっかけだったという。中学校で和楽器を取り入れた学習が必修とされる中、箏は半分近くの学校で選ばれている。また、指導要領の改訂で、単に和楽器を入れるのではなく、旋律として和楽器を導入する必要があり、リズムパートになりがちな太鼓などは導入しにくい。様々な観点から今後も箏の需要が見込まれるとビジネス視点でも考えた。

同社は、創業70周年を節目に、ここ2、3年は他の事業部でも様々な取り組みが活発化しており、中にはISICOの事業促進支援事業や金沢市の新製品開発・改良促進事業に採択された事業もある。その分、「うちの事業部でも新しいことをやっていこう」との強い意気込みが生まれ、立ち上がりも早かった。2017年4月から開発をスタートさせ、わずか半年足らずで完成に至ったというから驚きだ。
同社は、三菱電機系列の代理店からスタートし、そこから派生して新分野にも進出。現社長が先代から事業を承継してからは、以前にも増して社員が新しいことにチャレンジしやすい社風に変わっていったそうだ。「社長のスタンスは分かりやすく、判断が早い。同世代の社員たちの、様々な取組やチャレンジがどんどん受け入れられて、社内が盛り上がり勢いづいた。」とは、高橋総務部長。
今回の箏の開発に関しても、役員会で「面白そうだからやればいい」とすぐにOKが出たという。そんな現社長がもたらした社風が「NEO-KOTO輝」のスピード開発を果たし、さらに「金沢かがやきブランド」認定へとつながったといえる。
 人事についても同様だ。2017年2月の役員改正で史上最年少の役員が2人誕生し、女性も部長職・課長職に昇進している。社内制度の改革も進んでおり新しい風や若い力をどんどん取り入れていく姿勢を打ち出している。

北菱電興株式会社

ものづくりの志を異業種部門の開発にも活かす

「NEO-KOTO輝」は2017年9月に発売したばかりで、現在予約注文を受け付けている状況。「金沢かがやきブランド」認定証交付式で製品がメディアに取り上げられたのを機に、関東地区からの問い合わせもある。また、北海道から九州まで、全国各地の楽器店とつながる営業活動も進めている。ただ、立ち上がりが早すぎたため、開発も営業もプロジェクトチームが兼務のまま動いているので、今後は体制を整えていくという。

製品を開発するだけでなく、ソフト面のサポートにも目を配る。麻井氏が開催する講習会は以前から存在するが、「NEO-KOTO輝」の導入前にも体験してもらい、製品の良さを知ってもらえるよう独自に講習会を行っている。
「NEO-KOTO輝」のリニューアルに合わせて、専用ケースも変更し、教本も現代風にアレンジしたものを準備している。開発事業部は元々ものづくりの現場ゆえ、メンテナンスやクレーム対応で鍛えられているため、「世にものを送り出すとはこういうことだ」という考えが根底にある。製品を発売した後を先読みして準備する体制によって、早くから細部への目配せができたといえそうだ。

「NEO-KOTO輝」を開発事業の新たなロールモデルに

現段階では箏以外の楽器の開発は考えていないが、「NEO-KOTO輝」をベースにどんどん改良していく予定。ちなみに、高齢者にも使ってもらえるよう、見守りIoT機能を加えるアイデアなどもあったという。最近、「和楽器バンド」の人気に伴い、若い人たちがやりたいという声が増えているため、若年層のニーズに応える機能を考えていきたいそうだ。

日本の伝統文化である邦楽の世界と、デジタルの世界、またマーケット拡大というビジネスの世界の間で、価値観の違いが大きかったこともまた、製品をつくり上げていく上で相当苦労した部分である。さらに他の仕事も並行しながら、楽器についてゼロから勉強して取り組んだのは大変だったが、その分面白さや、やりがいも大きかったと3名が振り返る。
箏プロジェクトの開発がタイトなスケジュールだったこともあるが、これからもっといろんな事業を立ち上げていくにあたり、ややパワー不足を実感しており、社内の体制を考え直す必要性も感じているそうだ。「この開発事業部の『NEO-KOTO輝』の取り組みを、今後、あらゆる事業を立ち上げていく上でのロールモデルにしていきたい」という力強い言葉で取材を締めくくって頂いた。

聞き手・文

村田 智(IT ビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、株式会社MONK 代表取締役)

◆北菱電興 株式会社
1947年創業。三菱電機代理店として地元に根ざし、電気・電子機器の販売、それらに関わる各種システムの企画・設計・構築・販売、エレクトロニクス機器の開発・設計・製造、建築設備工事の設計・施工管理と幅広い事業を展開する。2017年9月、自社開発した筝「NEO-KOTO輝」を発売し、「古くて新しい和楽器」として、同年10月「金沢かがやきブランド」大賞を受賞。

(取材日:2017年12月15日)