企業取材レポート
レポート
株式会社石野製作所
話し手:総務部 中嶋靖雄さん 吉田利浩さんさん
市内のものづくり企業の独自の技術や取り組みの情報を取材し発信することで、市内企業及びものづくり産業の発展につなげることを目指す企業取材レポート。
第3回は、「株式会社石野製作所」。聞き手は、村田智ディレクター。
本社会議室に通される際、横目にショールームの最新回転寿司機器が映った。「ずいぶん洗練されたな」と思った。高校時代、当時、石野製作所のグループ企業が経営していた回転寿司店舗でアルバイトをしていたからだ。生まれて初めてのアルバイト先で、従業員の中で最年少だったので、可愛がっていただいた思い出が蘇る。まさか20年後に、その時触っていた機械の製造元に取材に来るとは思わなかった。
コンベア機製造から回転寿司を広めた立役者
金沢発条商会として創業した同社は、昭和40年代に金沢市の近江町市場内の回転寿司店から要望された、自動給茶装置の製造・販売がきっかけとなり、自動給茶装置付寿司コンベア機の製造を本格化させた。昭和53年には自営回転寿司店の「くるくる寿司」をオープンさせ、10店舗近く展開したこともある。当時はロードサイドに店舗がなく、回転寿司がまだ世の中に広まっていなかった時代である。そのため、お客のニーズを把握して商品開発に活かすだけでなく、回転寿司店の運営サポートの場の提供という目的もあった。実体験を通して店舗づくりや運営の参考にしてもらうために、住み込みで働ける体制も整えて研修を実施。どんなふうに運営をするのかを、わかりやすくレクチャーするところから一貫して手がけたそうだ。長い人では数ヶ月の研修を経て、地元に帰ってもらっていた。 知られざる、寿司業界における功労企業である。
世界的「SUSHI」ブームも後押し
現在、主力の回転寿司コンベアシステムは国内シェア約60%を占める。回転寿司の店舗数全体が膨らんでいくわけではないが、スクラップアンドビルドが進んでいる背景もあり、今後も出荷数はますます伸びていくことが予想される。自社による海外へのセールスと並行して、日本国内の大手顧客が進出していることで、製品は海外にも広まっている。コンベアシステムは、1品1品オーダーメイドのため、常に打ち合わせを重ねてつくり上げるもの。ゆえに商社経由は難しく、ダイレクトな取引を主体に行っている。
ICT技術企業との協業も早くから実施
皿にICタグを埋め込み、スキャンすると瞬時に会計ができる自動精算システム「OAISO」や、販売状況や作業管理も含めた情報管理も可能なシステムなど、数々のシステムも開発している。その開発も基本的には社内で行っているが、コンセプトや仕組みを考案して外注する場合もあるそうだ。「OAISO」システム開発時は、ノウハウは社内で考え、ハード面で自社の技術外の部分は電子計算機メーカー等に依頼している。基本構想設計は必ず自社で手がけるが、情報・通信分野では、いろいろな技術を持つ企業と協力して開発している。
社員から新しいアイデアが生まれやすい社風
「創業者である会長は、アイデアマンでどんなに失敗しようがとにかく実行するタイプだった」とお二人とも懐かしそうに当時を振り返る。その志を継承して、社内では「提案制度」を設けている。社員が出した提案は、設置されている審査委員会で議論し、面白いとなればそれが商品化されるという仕組みだ。技術部員だけでなく、一般事務であろうと管理部門であろうと、全社員平等な権利として、年間で表彰される体制をとっている。 提案制度から生まれて大ヒットした製品の一つが、タッチパネルで注文するとお寿司を「新幹線トレー」が席まで直接運んでくれる「特急レーン」である。通常の回転寿司のレーンにこだわっていたため、当初はなかなか進まなかったが、「とにかくやってみよう」との思いでプロジェクトを突き動かしてみた。予想に反して、導入した寿司店舗から「売り上げが伸びた」という声を多く頂くようになり、大ヒット商品となった。「子どもは特急レーンを呼びたくて何度も注文する。子どものハートを掴めば親を巻き込んでリピーターになってくれる」そんな仮説が見事に当たり、回転寿司店にアミューズメント性を吹き込んだ瞬間だ。
新幹線トレーには様々なタイプを用意し、店内で、ワンタッチで交換でき、その日によって変更も可能。何本もレーンがあれば、入れ替えもできるようになっている。トレーが簡単に磁石でくっつくような仕組みになっているのは、万が一子どもが手を出してもさっと外れてケガを防げるという、安全面も考慮しているからだ。デザインについては、リアリティーを追求しながら様々な新幹線のモデルをつくり上げた。アウトソーシングでイメージだけ伝えて具現化してもらうなどのケースでは、外部デザイナーに委託することもあるが、特急レーンなどの製品デザインは社内で行っている。
他社にさきがけてデザイナーを採用することで「より伝わりやすく」
創業当時はデザイナーはおらず、2000年頃にデザイナーが入社して、プレゼン資料などにグラフィックデザインを取り入れ、商談時に製品特徴や魅力を視覚的に訴えることができるようになり、非常に助かっていたという。「我々がおおまかに描いた絵をキレイに整理し、デザインしてくれるのですよ」と吉田さんも微笑みながら話してくれた。最近では、お客様の要望を膨らませたイメージを3Dデザインすることが多くなってきている。
ものづくりの志を尊重し、開発センターを設置、若手にもチャレンジ環境を用意
会長は研究開発へのこだわりがひときわ強く、つねに新しい技術やアイデアを試すものづくりの現場を重視し、研究所をたくさん設けた。現在の研究所は、白山市八束穂(やつかほ)の「石川ソフトリサーチパーク」に設置した開発センターである。敷地内にある「金沢工業大学」とは、当初より、月1回の技術指導のコンサルティング契約もしている。野々市市の工場は現在倉庫となっているが、かつては研究所として研究開発をしていた。また、増泉にも研究所があったそうだ。 普段の生産業務を行いながら、開発業務を行うのは難しい面があり、そういう面では八束穂に開発センターをつくったのはよかったという。 「当社には、お皿を水に投下すると、ぐるぐる回って洗浄機へ搬送してくれる自動シンク『TKS』という機械がある。その若い担当者は、裏返しになっている皿をうまく表(おもて)面に戻す仕組みを、誰も思いつかない設計で構築してきて、とても驚かされたことがある。ほんのちょっとした構造の工夫で、うまくお皿の向きが揃う。見てみれば単純な仕組みだが、誰もがうなるほどで感心させられた。経験上どうしてもメカ的に主張してしまいがちだが、柔らかい発想からの『目から鱗』となる部分があって、大きな武器になることもある。しかも、そういったものが特許になると強い。そんな若い担当者がどんどん育っていくのが楽しみです。」と、若手にもドンドンチャンスが与えられる環境であることがうかがえる。
自社製品の知的財産権の保護を徹底する
設立当初から、知的財産の管理にいち早く取り組んできた。麻袋の口を開いて米を入れ易くする「イシノ式麻袋開口器」を製作。これにより2人がかりでやっていた作業が1人でできるようになるとあって、各県農協経済連を通して販売して、約20万台もの販売実績を上げた。すぐに実用新案として出願登録して権利を取得。これ以来、ずっと自社製品の特許を申請している。今までに370件以上特許出願しており、知的財産管理については先端的に取り組んでいる中小企業である。 強い権利にするためには、技術は特許、デザインは意匠、名称は商標で、といった具合に、知財ミックスして徹底管理されている。回転寿司コンベアシステムが国内シェア60%以上を占める成功の理由には、この知財戦略が大きく関わっていると考えられる。 出願後の権利の維持にも苦心する。外国から同じような製品が入ってきた際には、これに対して、当社の権利に抵触するのではないかといった内容の書面を送り、今後一切つくらせないやりとりを行うこともある。実際には、厨房の中に入ってしまうような製品だと目にしない限りわからないこともあるが、特許がなかったらもっと類似商品が出てくるのではないかと考え、「攻めの知財戦略」は今後も継続していく。知財管理については社内で担当を設け、管理する者は権利の維持についても常に気をつけて行っている。そもそも、これもまた以前より特許や意匠の必要性・重要性を強く感じて、力を入れていたこと。もちろん、ヒットした特急レーン「かがやき」も1点ごとに意匠登録されており、他が同じものを手がけることはできないようになっている。
様々な食の分野で製品展開を拡大中
現在の主力製品は回転寿司関連機器だが、それ以外にも焼成器(ものを焼く機械)などを手がけている。昭和59年から遠赤外線の部品が入ってきたことを機に、ヒーターを使った機械にも着手。その後、ガスを使ったものも加えていき、魚や肉、パンを焼いたり、水を使わず茹で卵をつくったりするドライエガー、セラミックバーナー、ハイブリットバーナーなどを展開し、自ら提案するかたちで製品を発信していった。 これまで培った回転寿司の機械や技術力を活用して、他の外食産業にも視野を広げて営業を拡大している。近年では、回転寿司店だけでなく、中華、カフェ、ラーメン店にまで特急レーンの導入が広まっており、今一番多いのは焼肉店。最新店舗といえば、千葉県舞浜の「イクスピリア」内にある、オーダーライン(特急レーンを応用した搬送装置)を導入した焼肉店である。タッチパネルで肉を注文すると、オーダーラインで運ばれてくる。大宮にあるラーメン店も同様で、券売機で麺のかたさ、スープの濃さなど選んでチケットを購入して、画面にかざすと注文され、席にラーメンが届くシステムが導入されている。大阪の串カツ専門店では専用トレーをつくった。「アミューズメント性を高めた食の楽しみを提供しており、その一方では、人材不足を解消する面でもお客様にとって少なからず役に立っているのではないかと自負している」とのこと。
今後もますます、創意と技術を組み合わせながら、様々な飲食業界へ進出していくことが期待される。無人運営の飲食店が同社によって実現される可能性もあるかもしれない。
聞き手・文
村田 智(IT ビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、株式会社MONK 代表取締役)
◆株式会社 石野製作所 1954年創業。繊維用機械の金属部品の販売を手がけたが、食品用機械の製造に転じた。1974年に開発した「自動給茶装置付寿司コンベア機」が、回転寿司店の省力化に大きく寄与して大ヒット、急成長を遂げた。さらに次々と製品を開発し、回転寿司の発展に貢献。60%の国内シェアを誇る回転寿司コンベアシステムのトップメーカーに。ほかにも、焼成機や食品加工機械など食にまつわる製品を開発・製造している。