ディレクターズトーク
レポート
クリエイターが実践する「働き方改革」 -未来の働き方はこうなる-
昨今の深刻な労働力不足の中、生産性の向上や働き手の増加などに取り組む「働き方改革」に注目が集まっています。 今回はその「働き方改革」をテーマに、ITビジネスプラザ武蔵の3名のディレクターから、自らの事例を通して、これからの働き方についてお話しいただきました。
「クリエイターが実践する「働き方改革」-未来の働き方はこうなる-」。
村田:今日お話しするテーマは「働き方改革」ということですが、新聞やテレビのようなテーマなので、若干緊張しています。まず久松さんに、本当のところ、どうなんですか、という話を聞いていきたいと思っています。大手広告代理店の長時間労働問題がありましたが、あの後から、何か意識をしていることはありますか?
久松:東京から金沢に来て3年目なんですが、金沢に来たときは、東京に比べてもう少しゆっくり仕事ができるだろうって思っていたんですけど、正直、あんまり変わってない(笑)。仕事も多くいただいていますし、帰宅する時間帯も遅かったりします。自分の働き方改革としては、なるべく夜中の12時までには家に帰ろうというようなことをしています。夜型なんですが、効率が悪い部分が出てきたりしたので、睡眠をしっかりとるようにしてみたり。自分の中ではだいぶ、働き方改革をしているつもりです…。もしかしたら僕と同じクリエイティブ、デザイン関係の方もおられるかもしれないですが、この業界って、一番働き方改革に当てはめづらいと思っていて。その中でどうすれば良いのかなと。
村田:IT業界は逆に、効率化という面では取り入れやすい素地がある業界かと思いますが。
福島:IT業界全般も、ブラックだとよく言われていますよね。業界自体、昔から「3K」と言われたりしています。ただ、極端な言い方をすると、パソコンが1台あれば仕事ができる、ネットつながっていたら人と会わなくて良い、といったことがもともとしやすい業態ではあるので、会社にとってプラスのことをしていこうとすれば、自然に働き方改革をしていく感じになると思いますね。
村田:働き方改革という言葉をテレビなどで聞かない日はないけれど、一体何なのかっていうことですよね。効率化みたいな定義がありますが、定義が各々みなさん違うんじゃないかなと。
久松:働かせ改革とも言われてたりしますよね。
村田:参加者の皆さんで、ご自分の会社で、働き方改革を取り組まれている方いますか?いらっしゃいますね。教育機関の方もいらっしゃいますが、教育機関でも、意識されているんですか?
A:大学でも、ワークライフバランスなんかに関する話し合いはしています。ただ、もう10年くらい話し合いをしていると思うんですけど、成果が出てるとは聞いてないです。
福島:「ワークライフバランス」ってキーワードも、よく言われますよね。
久松:今は、会社説明会などでも、これから就職する人たちが、労働面や給与面でワークライフバランスについて質問すると聞きました。そもそも、そんなに働かない前提で入ってくる(笑)。
村田:働かない前提っていうわけじゃないんでしょうけど。ちょうど先週、カラフルカンパニーという、「金沢情報」というフリーペーパーを出している会社の編集長から話をお伺いする機会があって。彼の会社って、北陸で、新卒採用人気ランキング6位なんですよ。数百人の希望者が来て、書類審査の後は面接するんですけど、必ずワークライフバランスについて聞かれるらしいです。ああいう代理店って、不夜城って言われることが多い業界なんですが、定時退社だそうです。仕事も持ち帰ってないんですって。何でそれが実現できているのか聞いたんですが、それは追々話していきたいと思います。
福島:みなさん、どういうイメージなんでしょうね。働き方改革って。
久松:デザイン業界は、あまり関係ない。「どうしてくれるんだ」という意識ですね。ずっと前から言われていて、みんな気にしていたことですし。
福島:そもそも、改革をしないといけないという意識は、デザイン業界にありますか?
久松:常に言われていますね。みんな「朝型にならないと」って言い聞かせる、みたいな。
福島:みんな、ある意味で諦めちゃっている?
久松:そうですね。結局どうしようもできないっていう現実があったりします。ただ、最近は大手企業さんであれば理解をしていただけることも増えました。これまではその日中に見せなくてはいけなかったものも、「時間が遅いので、仕上がりは明日ですね」と言ってくれたり。けれども、北陸の中小企業などは、まだまだ関係ないと思っておられるところもあるのかと思います。
福島:企業規模でも、だいぶ変わってくる話ですよね。
久松:結局、時間を区切って会社を出るんですけど、LINEで仕事をしてたり、外注先のプロダクションで仕事したりという話も聞きますね。
テーマ:生産性の向上
久松:僕の中では、働き方改革に疑問があるんですよね。働き方改革として長時間労働についての規制がよく言われていますが、僕たちみたいなクリエイティブ、デザイン業界の仕事って、労働時間を規制されると、例えばアイデアを考える時間も減る。それだけアイデアが出ないということもありますし、難しさも感じます。長時間労働の規制っていうものに関しては、ちょっとどうやれば良いのかわからない。
根本的に、企業が出す商品のタイミングから見直すべきだという話もあると思います。仕事がはじまってから、納期までのスパンが短いことも多いんですよね。そもそもクリエイティブの時間を考慮したスケジュールにするとか、根本的に変えていかないと、なかなか難しいんじゃないかな。企業とか個人が働き方改革をしても、クライアントにもその意識がないと現実的じゃない。わりとリアルなんですけど、「今日、何の打ち合わせで集まってるんでしたっけ?」って、集まっちゃってることもある(笑)。打ち合わせも、「一緒に考えましょう」って感じで、打ち合わせの時間を使って一から考えるみたいなものもあります。そうなるとやっぱりすごく無駄な時間が多い。打合せって各自でアイデアを持ち寄って、そこで披露して進めていくものかと思うので。その辺で生産性ってすごく変わってくるなって思っています。クライアントでも、スケジュール管理を全く考えてない人もいるので。もう少し意識を持ってもらえると、「じゃあ来週の打ち合わせまでには、こういうことを決めておきましょう」って挑めるので、すごくスムーズに進められる。中小企業の方の意識も変わってくれると生産性が変わってくるっていうのもあるので、働き方改革も、もう少し具体的な、基本的な進め方があるといいですよね。
福島:「今日、何の打ち合わせだっけ?」っていうのは、さすがにないですよね(笑)。でも、毎週必ず会いましょうっていうような、定例ミーティングを作ったりするのが好きな方はいるのかもしれない。良いふうに機能することもあるんですけど、仕事が順調に進んでたら話をする必要もなかったり、オンラインツールで良かったんじゃないか、メッセージレベルで良かったんじゃないかっていうことはありますね。会って話をすると、メッセージだったら一行で終わることを、何十分も話していたりするんですよね。
今お聞きしていて思ったんですが、デザインの世界では、生産性をあげるための手法を自分たちで作り出すってことが、これまでの長い歴史の中でなかったということなんでしょうか。
久松:なかったですね。「やれば、やるだけできる」みたいな。
福島:根性論だったんですね(笑)。
久松:ただ、「よし、これからやるぞ」って、良いアイデアが出てきたりするわけじゃないので、なかなか成果がはかりづらいっていうところもあります。労働時間で決めづらいので、どうしていけば良いのかっていうところがあります。
村田:私は独立するまで金融機関にいたんですが、そこは完全に報酬制だったんです。基本給がないっていう。成績をあげないとその月は仕事をしていないと見られて、給料がゼロなんですよね。外資の会社だったのでそういう考え方だったんですけど。デザイナー業界でも、完全報酬制をとることはできないんですか?おそらくデザイナーによっては、長い時間をかけてゆとりを持って仕事をしたい人、たまには飲みに行ったり遊びに行ったりしてインプットして、それをアウトプットに反映させるから長い時間がかかるという人、短時間でかなり集中して良いものを出すという人、いろいろいると思うんですが。
久松:広告は、売れることにつながることが成果なんですよね。話題になった、売り上げがあがったというようなところで成果が判断できると思うので、初めに「成果として売上が2倍なる」と言っても、ならない場合もある。同じ事例でも結果がわからないので、「2倍の結果を出します、だからこれだけの時間ください、予算ください」と言っても、見えないものに対して企業側もなかなかお金を出さない。何をもって広告やデザインの成果っていうのかが、難しいなと思っています。
福島:やっぱり、1時間やったからって良いアイデアがでるわけじゃないから、デザイン業界で時間給制をとるのは、本来、おかしいんですよね。ただ、長時間労働が問題になってるのは、「10時間やったら良いアイデアがでるから、みんな長時間やれ」という風潮だったり、純粋に仕事量が多いということだったり。本人の効率云々の世界じゃなくて、単純に長時間働かされてるっていう問題はあるのかなと思います。
IT業界でも、同じプログラムを作るにしても、能力高い人、低い人、もしくは経験がある人、ない人では、出来上がる品質がまったく違うわけですよね。だから、「これは定時に帰っても一週間で完成するな」と思ったプログラムが、経験がない、能力が低いといった理由で2週間かかっちゃったっていうのが、あり得るんですよね。そうなると、2倍で働かなくちゃいけなくなるっていうのは、ありますよね。あとは、単純に読み違いみたいなこともありますよね。1週間でできると思っていたけど、やってみるとできなかったっていう。そういう時はどうしても長時間労働になるんですが、それはそれでも良いんじゃないのかって思ったりするんですけど。
村田:能力が不足してるエンジニアの方が、その仕事をきっかけに仕事を覚えていくっていう意味では良いのかもしれないですね。それをずっとやってたら意味がないですけど。
福島:例えば、確実に2倍の時間がかかるってわかってるのに、そのまま増えつづけるっていうのは、間違ってるとは思いますね。
村田:久松さんの業界は、生産性の向上とか、働き方改革として、何をやっていいかわからない状態なんですね。
久松:目指すところが共有できてないと、一から戻ったりして悪循環になったりするので、最初に「どういうブランドにしたいですか」とアンケートみたいなものをとったりして、目指す先を共有して進めていくことはしていますね。はじめに目指す方向とかをしっかり決めれば、途中でひっくり返ったりはしないなっていう。
村田:久松さんのオフィスでも、それが上手い人、下手な人っているんですか?
久松:いますよ。だから、社内のチーム、一緒に進めるスタッフともコミュニケーションして、共有して進めていかないといけないですね。
テーマ:時間に束縛されない
福島:長時間労働って、確かに良くないし、できるだけしないほうが良いと思うんですよね。ただ、私はそもそも、何時間働きたいとか、そういうのも自分で自由に決められれば良いと思っていて。例えば、「僕は1日2時間しか働きたくない」という人がいて、それで、「2時間しかできないんだから、仕事もちょっとしかできません」って言ったら、それは、会社としては、仕事こなせないんで困るって話なんですけど、「2時間で素敵なデザインが生まれるんだよ、俺は」みたいな人だったら、極端に言えばそれでも良いんですよね。そういったことを、ちゃんと会社と話し合いができたり、それを受け入れる会社の仕組みや制度があれば良いのかなと。
IT業界だと、設計や企画みたいなところは、時間じゃ成果がはかれないことが大きいんですけど、プログラムを作る部分っていうのは、けっこう時間が見えやすい。ただ、そこはどういう手法でつくるか、経験とかによっても大きく違うんですよ。だから、1日8時間で余裕でこなせる人もいるだろうし、12時間やっても間に合わない人もいるだろうし。時間が、使い方で全然違ってくるっていうのが、IT業界なんです。
話がずれちゃいましたけど、時間をあんまり気にしないで働けるようになるのが最終的には良いと思っていて。短時間とか裁量労働とか。うちの会社の女性社員で小さいお子さんがいる方は、現在育休中で、4月から短時間勤務で復帰します。短時間勤務を採用されてる会社さんは多いですが、うちとしても、短時間だとしても、まったく働けなくなるよりは全然良くて。IT業界は、男性、女性の差を感じないし、むしろ女性の方が効率がすごく良い。「子どもを迎えに行かなくちゃいけないので16時には絶対帰らなきゃいけない、でもこの仕事はこなさなきゃいけない」ってなると、女性は16時に終わらせるんですよね。逆に、特にその時間に帰らなくてもいい人は、どこかで「20時までに終わればいいや」っていう想いがあるので。短時間勤務でも8時間並に働いてくれる社員さんに、多く働いてほしいなって思います。
村田:短時間勤務って、どれくらいの短時間なんですか?
福島:6時間とか5時間半とかですね。
村田:大和タクシーさんは、2時間とか3時間とかでも受け入れてますね。「子どもを幼稚園に預けて迎えにいく間だけ、働きませんか」っていう人材募集をしている。「2時間ってシフト組めるんですか」って聞いたんですが、どの時間帯にお客さんがタクシーを使うかってデータを持っているので、短時間しか働けない人の人材も活用できるそうです。
福島:タクシーと、その短時間の働き方がマッチしてるんですよね。データも蓄積されていて。昔だったら、残念ながらそういうことができなかったかもしれないけど、今ならそれができるってことですよね。生産性の向上ということでICTのツールが企画されて開発されてたりするのは重要だと思いますね。
村田:リモートワークの方も多いですか?
福島:うちの会社ではリモートワークを認めています。ただ、リモートワークしたくないって社員もいます。選べれば良いかなと思っていて。リモートワークしたくて、それができるなら、それで良いし、会社に毎日来たいって人がいても良いし。うちの会社はそんなに大きい建物じゃないんで、社員が増えていったらだんだん、どうしようって思うんですけど。「ぜひベテランに卒業してもらいたいよね」って冗談で言ってたりしています。ベテラン世代がリモートワーク中心になったり。
村田:福島さんの会社は、創業メンバーや取締役がリモートワークですもんね。
福島:ほとんど会社にいないですね。でも普通に開発して、普通に部下に指示したりしているし。自分も、週に1日会社にいるかいないかなので。そういうのも全部リモートワークが可能にしてくれてるところがありますよね。
久松:デザイン業界も同じですよね。東京でも仕事してますし、連絡が取れればできるところがある。
福島:リモートワークのツールって世の中にたくさんあると思うんですけど、あれはただの道具だし、それを使ったからって誰でも同じようにリモートワークできるとは思えなくて。リモートワークのリテラシーみたいなものが必要なんですよね。「うちの会社であんなの導入しても全然うまくいかなかった」っていう声があるのは、道具が悪いんじゃなくて、リテラシーを学んでいないというか。「うちの会社ではどういうリテラシーでやろうか」みたいなことを決めずに、道具だけ導入しててもダメなのかなと。
村田:ツールにも精通していて、かつ仕事の流れとかがわかっている必要がありますよね。この業種だったら、数ツールの中でこれが最適なんじゃないかってコーディネートする力も求められますよね。僕は最近、仕事で農家さんとお付き合いがあるんですけど、トヨタ自動車さんとか、ヤンマーさんやクボタさんといった農機メーカーさんが開発した農家さんの仕事をクラウド上で管理するツールがあるんです。この間、メーカーさんが主催するセミナーに行ったんですが、最初に農家さんから出た質問が、「社員が全員データを入れてくれないので、どうしたらいいか」っていうものでした。効率を上げるためのツールなのに、効率が下がってるのでどうすればいいか聞いた、みたいな。実態にあってないツールなんですよね。遠い何十年後だったらデータが蓄積して効率化が図れるのかもしれないですけど。
福島:単純にリモートワークすれば、例えば短時間で生産性があがるのかというと、そういうわけではないのも確かだと思うんですよね。だから難しくなるのかなって。道具を入れればうまくいくわけじゃないし。リモートワークの信頼性があがらないというところもあるかなと思いますね。
村田:例えば営業会社さんとかで、スマホのGPS機能を活用してタイムカードの打刻をするっていう会社があるんですけど、時間を基準に働かせようとすると、そうなっちゃうっていう。
福島:仕事によっては、本当に時間単位ではかる仕事もあるんですが、今後間違いなくそうじゃない仕事の方が増えていくと思うんです。だから、個人的には、時間の管理をスマホで、GPSで、ってところにお金や労力を使うくらいだったら、他の方法を考えたほうが良いんじゃないかなと思ったりしますね。
さっき久松さんが、会社を出てからもLINEで仕事しちゃうって話をおっしゃっていましたが、本人がそれをやりたかったらやっても良いんじゃないかと思ったりしていて。自分も、例えば今日みたいに夜にイベントがあるっていうのは仕方ないんですけど、特に何もなかったら基本的に絶対18時頃に家に帰るんです。18時頃から家にいて、子どもたちと一緒にご飯を食べて、テレビ見て。でも、どうしても仕事が残ったという時は、子どもたちが寝た後、22時頃とか23時頃に1、2時間くらい仕事をするんですよね。18時から2時間増やして20時に会社出るっていうよりは、絶対良いんですよね。自分が働きたい時間に働けていれば、そんなにストレスは感じないし。
久松:結果がよければ、場所も関係なかったりしますよね。
福島:そんなふうになっていくと良いなって思いますよね。皆さん、年齢の時期によって使いたい時間って違うじゃないですか。20代に独身で一人でいる頃と、結婚して夫婦二人でいる時と、子どもが生まれて子育てが大変な時期など、ライフステージで時間の使い方が変わってくるので。それをみんな一律、朝9時から18時まで働くっていうのはやっぱり変だというか。昔は、その仕組みでしかできなかったっていうのはあるかもしれないですけど、今はいろんな方法がとれる気がしていて。
村田:福島さんは、首都圏も地方都市もかけまわってらっしゃいますけど、北陸や石川県でフレックスタイムを採用していたり、自由な働き方を採用している会社は増えていると感じますか?
福島:IT業界はフレックスタイムを導入している場合が多いと思います。それがどのくらい望むように運用されているかっていうのはわからないですが、制度としてはあると思います。これも主観ですが、「利益率の高い仕事をしたい」いう企業ほど、そういうことを心がけている気がします。知人の会社でも、会社に出る、出ないも自由だし、そもそも最近までオフィスがなかったっていうところもありました。6人の会社だけど国の仕事をしたりして、利益率は高くて。大変な時期は、すごい働いてるんです。でも、それが不満とかにはなってないんじゃないかなと思ったり。
テーマ:繋がり方の今と昔
村田:僕は一人法人としていろんな仕事をやってるんですが、そのうちの一つとして、複数の会社さんの経理を引き受けている仕事があります。6社分の経理を一人でやってます。僕が担当する前までは、6クライアントはすべて経理の方を事務職で雇っていました。最初の1社は、売上が8億くらいある飲食店グループさんなんですが、ある時「経理の方がやめることになった。君は経理はできないのか」とお声掛けいただいたのがきっかけです。残りの5社は、その社長が全部紹介してくれました。僕に依頼するメリットが3つあります。まず、経理の人が辞めた時に、また新しい人をいれないといけないというリスクを避けられる。次に、辞めた人が数字を持っていっちゃうっていうリスクを避けられる。3つ目は、個人的なことですけど、社長が自分が使ってる経費とか給料を見られたくないっていうことで、需要がありました。どうやっているかというと、クラウド、dropbox、あとはfreeeさんとかの会計ソフトを活用しています。あとは、月に1回社長さんに会って報告するだけです。それをはじめた時は、オフィスを持っておらず、古いアパートでもちろんオートロックとかもないところで仕事をしていました。よく、セキュリティは大丈夫なのかと質問をいただくんですが、紙ものを持ってないので、盗るものがない状況なんです。パソコン1台で作業しているし、しかもパソコンにも何も入ってなくて、データはクラウド上にある。僕と社長だけが見られる状態になってるんです。
「ゆるい繋がり方」って何かっていうと、僕は税理士じゃないので税務調査が入ったときは税理士さんに頼みますし、会社の統計が必要だってときは司法書士さんに頼みますし、ITのことで困った時は、福島さんに相談します。窓口は僕だけど、僕ができないことはやってもらう。ここのディレクターをさせていただいて、いろんな会社さんと知り合いましたが、利益率が高くて儲かっている会社は、繋がり方が今風なんですよ。適度にゆるい。例えば、いつもは久松さんに紙もののデザインを頼んでいるとして、昔は、一度久松さんと付き合ったら、よっぽどのことがない限り金額が高くても久松さんに依頼していたんです。でも、最近の会社ってその辺がいい意味でゆるい。久松さんはこのデザインは得意だけど、こっち系のデザインは得意じゃなさそうだから、福島さんに頼もうかなとか。そういうのができてる会社さんは、生産性が高いと思います。かといって、「いつもうちと付き合ってるのに、あの人、裏切りやがって」って人とは付き合わない。
久松:社長さんが若いというような特徴はありますか?
村田:そうですね。50代だったりします。
久松:6社さんは、経理で村田さんに入ってもらうことで効果が出ているんですよね?
村田:情報が社内に漏れることがない。例えば、新規事業をしようとしていて、お金が動く。本当は社員に内緒にしておきたいけど、経理の人が社内にいたら、「新しいことやるらしいよ」という情報がどうしても漏れてしまう。それがない。
久松:経理の人員を村田さんにするっていうことが、働き方改革につながるということですよね。
村田:経費はかなり圧縮されていると思います。
福島:個人事業主や小さめの会社さんでは、経理などもクラウドサービスでやっているような例は増えてはいますね。
村田:経理の人は毎日出勤するんですよね。仮に9時?17時で20日出社する。でも、正直、そんなに時間はかからないんですよ。たぶん、10日とか15日で済んでしまう仕事内容なんです。
福島:働いている人じゃなく、会社側の働き方改革って感じですね。ワークシェアリングじゃないけど、「うちで経理を10日間だけやってほしい」ということはあり得るかもしれないですね。他の会社も「うちも10日だけ経理やってほしいな」みたいな。
村田:狭めるっていう手法は使えると思います。この中でお店をされている方がいるかはわからないですけど、商品棚は狭めれば狭めるほど売れるらしいです。利益率が高くなります。お仕事でもそうです。幅広く何でもやりますっていう総合商社の会社よりも、専門商社のほうが利益率が高いんですよね。
久松:福島さんの「短時間で良い」って話と似てますよね。無駄を省くって意味では。
福島:そうですね。アウトソースとか、10日間でいいという話は、会社側には利点が多い話ですが、働く人側でもそういう働き方が良いと思う人がいると思っていて。本来、非正規雇用っていうのは、縛られた働き方じゃなく、例えば短期間だけ働きたいというような人がいた上での役割なんですが、今は、非正規雇用=安い労働力に置き換わってしまっていて。10日間だけ働きたいとか、ライフステージに合わせて「今は短い時間しか働けない」って人ももちろんいるんですよね。今後は男性でも増えてくるかもしれないし。例えば、10日間はある会社で働いて、残りの10日間は自分が作っているプログラムのメンテナンスにあてたいと。でも自分のプログラムだけでは食べていけないので、10日間だけ会社で働くとかもあり得るかもしれないし。さらにそれが、契約社員じゃなくて正社員という形であっても良いなと思ったりするんですよね。その人、人で幸せに働ける時間と働き方が良いなと。ただ、法整備がついていってないので、今の法制度で自由にやりすぎると、なかなか面倒になってしまう。うちの会社も、社労士さんに入ってもらって、いつもアドバイス受けながら管理をしてるんですけど。
国会で、残業した分の残業代を払う必要があるって議論してたりしますけど、まともに考えたら当たり前の話だというのが、うちの会社と、うちに入ってもらっている社労士さんの考えで。うちの会社も裁量労働制度をとってるんですが、ある一定の時間を超えた分に関しては、裁量労働にプラスして残業代を払っています。今の法に則っているし、実際、残業せざるを得なくなった原因が、会社側の理由ということもあり得るので。だから、会社としては裁量労働で働いてもらっているのでできるだけ短く働いて欲しいんですよね。でも、今、長時間労働として問題になっているのは逆で、会社側が長く働いてほしいっていうんです。うちの会社は、短く働いてほしいんです。そうじゃないと、経費がかかりすぎるから。そういう意味でも、発想を変えないとダメだなと思いますね。
村田:労働市場で人手不足だと言われてますけど、福島さんがおっしゃったような、制度なり、考え方ができない会社は生き残っていけないんじゃないかなって思ってます。
福島:人材不足って言ってますけど、少なくとも、ITの世界では、「都合の良い人材不足」というか。単純に、安い労働力が足りないと言ってるだけってところはありますよね。
村田:何年か前に、総フリーランス社会になっていくって話がありましたけど。最近の事例でお話すると、ビルの足場屋さんでおもしろい動きをしている会社があります。そこの会社は入社して2、3年経つと、全社員を社長にするんですよ。「今日からお前は社長だ、ただし、仕事はうちから出す」って言って、会社を作らせるんです。しかも、会社の登記費用はその親会社が出す。なおかつ、最低限食べていけるくらいは、今までの社長が仕事を与えて、なおかつ、やる気あるんだったら他からも仕事とってこいというスタンスなんです。
福島:IT業界もそういうパターンがありますが、IT業界の場合は悪いふうに使われています。みんなフリーランスにさせてしまうんです。今まで通り仕事は出すけど、社員じゃないので「いくらでやって」と放り投げることが可能になるんです。そうしたら、どんどん安い労働力として使われる。
村田:足場の会社の場合は、元雇い主の社長と、元社員の社長がいたら、元社員の社長が「安すぎる」って交渉したりしてました。あとは、設備や備品もすべて最先端ですね。
福島:結局そうなんですよね。ちゃんとやってる会社は、「お金かかってますね」っていうところのお金もちゃんと稼げていて、ぐるぐると、良いふうにまわってる。経営がやばいなって会社はとことんケチって、それでも苦しいみたいな。きっと統計をとったら相関関係があると思いますよ。取引先とか、自分の会社よりも下の立場になる会社さんに「最近厳しくて、お金を下げていかなきゃダメになると思うんだよ」って言っているようではダメで、逆に、「お金たくさんもっとあげられる、いい仕事させられるよ」って言えるくらいの会社しか生き残っていけない気がしています。そうじゃないと、働いている人にもどんどんしわ寄せが来る。それで品質高く、いい仕事をして、アイデアもいっぱい出せよっていうのは、都合が良すぎますよね。
テーマ:経営者視点で
久松:経営者視点で、思い切った行動をすることも必要かもしれないですよね。ただ、経営者じゃない人もたくさんいらっしゃると思うので、そこはどうしたらいいんだって話ですよね。
村田:例えば僕が経営者だとして、会社の付加価値の対価として測れるもので換算すると、利益×時間×仕事量という三つの軸で考える。仕事量を減らすんだったら、利益を上げるしかないですよね。時間を落としたいんだったらあとの二つを上げるしかない。経営者が自分の会社の仕事の割り振りを考えればいいんですけど、結構、みんなやっていないんですよ。よくあるのが、社員全員を食わせるために、利益があまり出ていない仕事をやり続けるっていう例ですね。 福島:単に売り上げを上げようっていうことですね。
村田:そうです。若手のベンチャーにありがちなんですけど、あれもやりたい、これもやりたいって社員を入れていくと、今度はその人を食わせるために仕事を増やしていくしかない。負の循環でどんどん借り入れが増えるっていう会社を何社も見てきました。
久松:難しいですよね。いろいろ広げていきたいし、可能性があるから新しいことをやろうとするんでしょうけど、その見極めができる人と、できない人とがいるから。
福島:バランスが必要なんでしょうね。
久松:利益率を考えて仕事を取るっていう考えを持つと、違うんでしょうね。
村田:久松さんの業界でも多いですよね。蓋を開けてみたらあんまり利益残ってなかったという例。そもそもお金の話をしない人もいますしね。最後の最後に「で、いくらでやってくれるの?」みたいな。
福島:人間は働ける時間が無限じゃない。例えば8時間なら8時間、10時間なら10時間しか働けなくて、村田さんのおっしゃった掛け算でいうと、10時間なら10時間って固定される。利益率が少ないから10時間を15時間にしてくれというのは、人間ではあり得ないんで。そこをしっかり計算をしておかないといけないですよね。
自分はサラリーマン時代、付き合いで残業するとかすごい嫌だったし、土日も仕事をしたくなかったし、できれば残業したくないって人だったんです。だから、自分の会社はそうしたくないっていう思いが強くて。それでも社員はやっぱり残業してるんです。18時に帰ってほしいけど、終わらないという感じです。土日祝日は休んだりできてるんで、いいかなと思うんですけど。「こうやれば上手くいくよ」ってことはないってことですよね。
村田:正直、経営者次第だと思いますね。あと、人が膨れすぎてる会社っていうのは、大ナタを振るうしかないと思います。特に既得権益で守られてきたビジネスとか、数十年の歴史の中で初めて生産性を求められている。そういう業界とかは、大ナタをふるって販管費を減らさないと、今からは生き残れないと思いますよね。
福島:大企業だから余裕があるという概念は少しずつ崩れてきていると思います。東京の仕事の流れを見ても感じます。
村田:エルメスなんかのバッグの生地を作っている会社さんで、新しいプロジェクトを若手社員にチームを組ませて常に7つ走らせているという会社さんがありました。社内ベンチャーですね。その取り組みを始めるまでは新卒募集をしても応募がゼロだったらしいんですが、その取り組みをはじめて対外的に情報発信したら、去年は二百何十倍の応募だったそうです。
福島:そういうことができる会社にいきたいという、学生たちの需要があるんですね。
村田:自分の能力を活かすことをやりたいって思ってるんでしょうね。
久松:働き方改革も、小さい単位、身近なところから変えてくということでも良いのかもしれないですね。大きなことにつながっていくかもしれないし。できることからはじめることも働き方改革かと思います。
質疑
質問A:フリーランスで人事とウェブデザイナーをやっており、もう少し、クライアントと、スカイプやチャットワークでのやり取りを増やしていきたいと思っています。社外的なリモートワークについて、聞かせてください。
村田:クラウドサービスと、チャットを利用しています。先週、銀行、司法書士、売却側の企業、買収側の企業ってM&Aがあったんですけど、決済以外は全部リモートでのやり取りでした。一番抵抗があったのは銀行さんでしたね。メールでアドレスを送って、そのリンクボタンを押すだけでチャットに入れる「appear.in」というサービスを使ったんですけど、「どうしていいかわからない」と銀行さんから問い合わせがきました。買収側の企業と売却側の企業は知り合いで、クラウドやチャットを使い慣れている人だったので問題なかったですね。
福島:基本的に忙しい方は、時間が貴重なので、「時間短くすみますよ」と伝えると了承してくれたりします。「お互い忙しいので、この日の1時間空いている間に打ち合わせしましょう」というような形でやれますよね。
村田:お客さんを選んでいったらいいですよ。今フリーランスでやられてるってことだったんで、リテラシーの高い人と仕事をすれば、自分の生産性も高まりますし。わざわざ出向いて使い方の説明しないといけないとなると、本末転倒ですし。
質問B:村田さんに質問なんですが、クラウドサービス等を利用する中で、クラウドと紙ベースの情報が混在していると、結局どちらも使うことになって能率が悪くなってしまうと思います。例えば年商8億円の飲食店さんの経理をやるとして、伝票などの紙ものの扱いはどうされてるんですか?
村田:まず、お客さん側に届いた紙ベースの請求書などをスキャンしてデータ化してもらい、それを送っていただいてる、もしくはクラウド上に入れてもらっているという形ですね。基本的に僕のところに来るときにはデータ化されている状態です。
例えば個人事業主やパン屋さんなど、売掛金や買掛金がない現金商売をされている方たちで「メリービズ」というサービスを活用してらっしゃるところもあります。紙で届いた請求書などをPDFファイルにして「メリービズ」に送れば、確定申告までやってくれます。
【登壇者】
福島 健一郎 氏
アイパブリッシング株式会社 代表取締役
一般社団法人コード・フォー・カナザワ 代表理事
社会課題解決を軸にした事業展開を行い、テクノロジーで地域課題を解決するシビックテックを実現するための基盤となるオープンデータやオープンガバメントの推進についても精力的に活動を行っている。
久松 陽一 氏
株式会社Hotchkiss 金沢支社 アートディレクター
東京でSoftBank等の大手企業の広告企画制作に携わった後、金沢に活動の拠点を移す。
金沢では、起業支援PRプロジェクト「はたらこう課」や 金沢の小さな美術館限定「ごミュ印帖」を手がけるほか、 地元企業のPR、ブランディング、まちづくりの取り組みなど、多数の事業を展開中。
村田 智 氏
株式会社MONK代表取締役、株式会社りんく取締役
経営コンサルティングを軸に、財務マネジメント、マーケティング・セールス、ビジネスモデル構築、経理部門アウトソース、ITサービス導入、講演活動の各種サービスを提供し、社員参加型経営を推進している。
現在までに建設、飲食、食品製造、医療、IT 、デザイン、農業と多岐に渡る業種に携わっている。