#62
担当ディレクター:福島 健一郎
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。
PTAや地域の様々な活動は、とても大事なものですが、まだまだアナログの部分も多く、その非効率性から、多くの方が敬遠しがちな活動です。
今回は、市民主体となって地域課題をテクノロジーで解決する「シビックテック」と呼ばれる活動やPTAの活動を熱心にされている雄谷さんをお招きして、地域活動とDXについてのポイントをお聞きしました。
【ゲストスピーカー】
雄谷 峰志 氏(Code for Kanazawa プロジェクトリーダー)
普段は金沢のIT会社でシステムエンジニアと採用担当を兼務しながら働いている雄谷さん。その傍ら、一般社団法人「コード・フォー・カナザワ(CFK)」という団体でプロジェクトリーダーとして活動したり、PTA(育友会)の総務委員会委員長を勤めたりと、幅広く活動中だ。
シビックテックとは
シビックテックとは、市民(civic)と技術(technology)から生まれた造語で、市民の困りごとを市民自らの手で解決して、より良い社会や地域を作っていく取り組みのことをいう。
そんなシビックテックと雄谷さんとの出会いは、2016年に参加した社外イベントだった。そこで福島さんと出会い、福島さんが代表を務める一般社団法人「コード・フォー・カナザワ」という団体で活動することになったという。
現在雄谷さんは、その団体でプロジェクトリーダーとして活躍中だ。これまでは、福島さんとも相談しながら金沢市内のテイクアウト可能な飲食店を検索できる「Takeout Map(テイクアウトマップ)」という、アプリを開発。最終的に350店舗ほどの飲食店が加盟し、多くの人に使ってもらいながら、コロナ禍の飲食店を支えてきた。また、「CIVIC TECH SUMMIT(シビクテックサミット)というイベントの運営を手伝ったり、初心者向けのアプリ開発教室を開催したりと、活動の幅はかなり広い。
「シビックテックでいいなと思ったところは、いろんな人がいるところです。企業から来ている人もいれば、主婦や学校の先生もいて。いろんな属性をもった人が集まっている組織だからこそおもしろいんですよね。会社の仕事だけでは出会えない出会いがたくさんあったのがすごく嬉しかったです。今までは会社の中だけの人間関係だったのが、ここに来て一気にいろんな分野の人と出会うことができて。知らなかった分野や業界も知ることができました」
育友会(PTA)でのデジタル改革
2020年、息子が小学校に入学したと同時に育友会の学級委員に立候補した雄谷さん。立候補した理由は、誰も手を挙げない空気が嫌だったからだという。
「誰も手をあげない沈黙の時間を無駄に思ってしまって。育友会が何かわかってもいない状態で手を挙げました。のちに、育友会がPTAであることをだと知ったくらい。育友会とPTAは基本的に同じで学校によって呼び方が違うみたいですね。僕のところは育友会と呼ばれていました」
そんな育友会での最初の仕事は、クラスの人数分である35枚の紙の書類に判子を押し、手書きで電話番号を書くことだった。未だにアナログの作業を行っていることに衝撃を受けた雄谷さん。この作業が、次年度実行委員になった時のモチベーションになったという。
「作業をしながら、来年また育友会に参加するなら、絶対にWEB化してやろうって思っていましたね」
そして次年度は、育友会の実行委員に立候補し総務委員副委員長に就任。そして3年目にあたる現在は、総務委員の委員長を務め、育友会にデジタル革命を起こしたのだ。
雄谷さんは、紙の書類で行っていた希望調査を簡略化するため、アンケート機能や活動内容の紹介などを備えた専用アプリを開発。グーグルフォームを使い、希望調査をアプリで回答できるようにした。さらには、育友会の仕事についての説明動画を作り、いつでもどこでも見られるようにしたのである。
初めはサイトを作ろうと思っていたがハードルが高かったという雄谷さんは、「コード・フォー・カナザワのアプリ開発塾でも教えていることもあり、アプリを作ればいいということに気づいたんです。プログラミングする必要がない『Glide(グライド)』というノーコードWEBアプリ作成ツールで簡単に作れることに気づき……。20〜30分で枠組みを完成させました」と語った。
結果、今では9割の保護者に使ってもらえるようになり、先生からも大変好評を得ているという。
「今後は、少しずつ育友会の作業を簡略化して、もっと力をいれなければならないとことに時間をさけるようになるといいなと思っています」
シビックテックがビジネスになっていく未来
少しずつシビックテックが浸透している昨今だが、日本ではシビックテックとしてお金しっかり回すような仕組みができている団体はまだそんなに多くはない、と福島さんは語る。
シビックテックは小さな課題から取り組んでいくことが多く、続けていくなかで課題ややりたいことがどんどん膨らんでいき、ニーズもみえてくるようになる。しかし、それがビジネスに繋がっていくことはまだ少ないのが現状で、取り組みの持続も危惧されているのだ。
例えば今回の育友会のアプリ開発ひとつにしても、雄谷さんがいたからこそ書類のデジタル化できたが、雄谷さんが抜けた時にデジタル化が持続できるかどうかは不明である。
「今は自分がいるからこういうこともできるんですけど、自分が抜けた時、やってきたことを他の人にわたすのって難しいんですよね。だからこそ、持続性を考えた時に、報酬があった方がいいと思います。後世にも繋げていくためにはビジネスにした方が続きますからね」
それに対し福島さんは「社会課題に対してただ汗をかくだけでなく、そこに対してなにかしらのビジネスが生まれるとか、必要な活動に対してお金を払う人がいるとか、そんな風になっていくといいなと思いますね。持続可能であることはやはり大切です。海外では、シビックテックコミュニティを支援する仕組みのようなものがあり、地域に根ざしている企業が寄付のような形で行われていることも多いのです」と語った。
また、福島さんは地域の課題を知りたいという企業は多くいるということを教えてくれた。「地域の課題を知ることでビジネスの種が生まれるIT企業なんかは、地域の課題をすごく欲しています。だからこそ、日本でも今後はシビックテックがビジネスに結びつく可能性は大いにあると思います」
シビックテックと多様性
シビックテックの良さは、多種多様な人が混ざり合い、いろんな話ができ、多様な考え方を知れる点である。
まさに「多様性」が重要なキーワードとなるのだ。多様な人が集まり、それぞれがそれぞれの視点で捉えるからこそ生まれるものも多い。だからこそ、もっといろんな人にシビックテックの考え方を意識してもらえるように活動していきたいと雄谷さんは語る。
「いろんな活動をしているなかで思ったことがあります。もっといろんな人たちが、仕事や企業ではなく『自分』を中心に物事を考えられるようになってほしいなと。
いろんなところに顔を出すようになって思うのは、会社の仕事だけをやっていると、そこだけの世界になってしまう。そうすると、自分の評価が会社からの評価になっちゃう気がしていて。だからこそ、いろいろな場所で活動することで、いろいろな顔をもつことができるんです。僕は、もっといろんな方向からみんな評価されるべきだと思っています。
視野を広げ、いろいろなところで社会と繋がりをもつってすごく大切なこと。なにかに依存せずに、いろんなことをやっていくような人ができていくといいなと思っています」
シビックテックでの活動は、「自分がこうなればいいなと思ったらやろうかな」というスタンスで行っているという雄谷さん。「自分」がまず中心にあるからこそ、そこに義務感はなく、会社以外でもやりたいことに手を伸ばせるのかもしれない。結果として本職にもプラスになっていき、いいこと尽くしだ。
まさにシビックテックの理念に沿った思考で活動している雄谷さんの姿に、ヒントをもらえた気がする。人のためだと思ってやり続けると辛いが、「自分がこうしたい」と思ってやることこそが1番のエネルギー源であり、人生の幅をも広げてくれるのだろう。
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雄谷 峰志 氏
(Code for Kanazawa プロジェクトリーダー)
聞き手
福島 健一郎
(ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、アイパブリッシング株式会社 代表取締役)