#55
担当ディレクター:杉守 一樹
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。
2022 年 1 月 14 日、第 55 回は、「広告費0円で、モノを全国に広めるPR術」。
聞き手は、杉守 一樹。
昨今、SDGsに対する意識の高まりを受け、ますます注目されているPRという手法。
今回のモチモチトークは、「いいモノを世の中に広める」をスローガンに、飲食、小売、自治体などこれまで 50以上の企業・団体の PR支援に携わってきた 有限会社高菱技研の高田さんに、PRのイロハを最新事例を交えながらお話いただきます。
限られた予算の中で、いかにテレビ・新聞・雑誌・WEB の露出を獲得して知名度を上げ、インフルエンサーも巻き込んでいくかなど、東京キー局と5大新聞紙の全てで露出を獲得された経験をもとに、PRの最前線を本音でトークしていただきます。
【ゲストスピーカー】
高田 涼平 氏(有限会社高菱技研 取締役)
石川県出身でありながら、東京で数多くのプロモーションやPRを手がけた実績をもつ高田さん。
PR 業と出会ったのは、大学時代にカナダのトロントに1年間留学へ行った時だったそう。大学卒業後に、PR会社である株式会社ベクトルに入社し、「いいものを世の中に広め人々を幸せに」をスローガンに、飲食、小売、自動車、保険など、5社以上のさまざまな企業や業種のPR支援に携わってきた。
2年間勤めた後に独立し、現在は新商品開発や新店舗の立ち上げ、市の活性化、アートイベントなど20個以上のプロジェクトを推進。関西圏のテレビ局や地方新聞紙での露出も獲得するなど、地方でのPR活動も得意としながら、2020年には東京キー局全局にて露出を獲得するなど凄腕の持ち主だ。
PRとは
PRといえば、よくプロモーション(広告)と混同されがちだが、実は全く異なるものである。PRとは「パブリックリレーションズ」の略語であり、公的な関係性という意味をもっている。お客様にだけいい関係性を築くというより、株主や卸先や取引先や従業員といった、会社関係社の満足度をあげ、関係性を築くことがPRの目的なのだ。
マーケティングの観点からみると、広告は主観発信、PRは第三者発信と言われている。自分の思いを確実に届けたいのであれば広告が効果的だ。対して、第三者の声に共感しやすくなる性質を活用しているのが PRである。
また、広告とPRとでは手法も異なる。広告であれば広告枠を購入し作成した広告を出していくが、PRはいかに記者の方に取材に行きたいと思わせられるかが勝負どころなのだ。
実は、普段私たちがみている新聞やニュースや WEB記事も、知らず知らずにうちにPRが入りこんでいることも珍しくはない。記者の方が取材し、記事になっていることが多いので、必然と目にすることが多くなるのだ。
PRの仕事はとてもシンプル。詳細は後述するが、以下4つのステップに沿って行っている
①プレスリリースと言われるメディア向けの資料を作成
② PR TIMES(プレスリリース配信サービス)やメールを使いリリースを配信
③ メディアプロモート・問い合わせ対応
④ メディア露出獲得
この4つのステップをこなしながらメディアへの露出を増やし、認知を得ていくのがPRだ
なぜ PR なのか
ただ、「露出をすればそれが売り上げに直結するのか」とよく聞かれるという高田さん。そこでまず知っておかなければならないのが、購入に至るまでの経路だ。購入経路は、5つのステージの循環によって成り立っている。
① 認知・興味
② 情報収集・比較
③ 共有・相談・検討
④ 参加
⑤ 継続的接触
「1 番初めは 『認知・興味』をひくために広告が有効的です。最近InstagramやTikTokを見ていると広告が流れていると思うんですけど、あれですよね。あのSNS広告を見た後のアクションとして、その広告の真意を調べることに繋がっていきます。そしてGoogleで調べたり、尊敬するインフルエンサーがすすめていたりすると、ようやくちょっと買ってみようかなという検討段階に入り、友達にも意見を聞いたりSNSでの共有が生まれます。その後、実際にお店に訪れたり購入したりするフェーズに入り、最後にメルマガやDMなどを使いイベントの案内などを送ることによって継続的な接触をはかっていくのが購入までの流れです」
高田さんは、「①認知・興味」と「②情報収集・比較」の両軸で、うまくまわしていくことが大切であるという。
その中でもPRが得意な部分は、2 つ目の「情報収集・比較」だ。広告を仕掛けた際に検索され、その検索された先にいかに情報を貯めるかがポイントなのである。
また、これまでは新聞、テレビ、ラジオ、雑誌といった4大マスメディアが圧倒的な立ち位置を占めており、消費者との接触時間を背景に巨大な力をもっていた。しかし、現在はSNSの発達と普及により、情報流通量は激増。誰でも情報発信が可能となったことから個人の発信力が巨大化され、個々人がメディアとも言える時代になっているのである。
個人が影響力をもつこの時代だからこそ、情報が溢れかえるこの時代において、人はより優れた情報を求め、取捨選択するようになってきた。「安全」「おいしい」「安い」などの謳い文句は刺さらなくなってきている。情報過多になっているからこそ、「なぜ、いまこの商品が私に必要なのか」をしっかり説明してあげないと売れない時代になってきているのだ。
「だからこそ、最近は広告が嫌われるんです」と語る高田さん。スマホ有料アプリランキングで表示される1位2位は、だいたい広告ブロッカーなのだとか。
また、米ニールセン社が行った実験で、サイト上のバナー広告は、ほぼ見られていないことがわかった。それどころか、広告でなくとも「広告に見えるもの」はすべて見向きもされなかったという。
共感されるコンテンツづくり
こういった時代だからこそ、共感されるコンテンツづくりが大切であり、PRの役割も重要になってくる。
消費者が求めているであろう“情報価値”が欠けていれば、そして共感されなければメディア露出は難しい。PRの仕事は、企業と、テレビや新聞、雑誌などのメディアが伝えたい情報(社会に今必要なもの)のギャップを埋めることなのだ。
そのためにトレンドや世論を取り入れ、企業とメディアのギャップを埋めていくことで、社会から必要とされるニュースになり、その結果、取材依頼がきやすくなるというのがPRなのである。
共感される良いコンテンツを作るためには、「ブランドビジョン(企業の存在価値)」「コンシューマーインサイト」「社会的世論(メディアインサイト)」を組み合わせることが大切だ。
① ブランドビジョン:なぜその企業が存在しているのか
② コンシューマーインサイト:お客様がいま欲しているものはなにか
③ 社会的世論:いま社会で何が求められているのか(食品ロス・SDGs・エコなど)
「この3つのうち、2つ以上が重なれば良いものが生まれていきます」と語る高田さん。
「企業の人は、自社のことや自社商品について、良さや強みを理解し、その良さを使って商品開発したりアピールしようしたりするのが一般的です。
一方で僕は、逆算して考えるんです。“どうすれば認知拡大されるか”をまず考えるんですよね。掲載獲得を考えた上で、プレスリリースに落とし込み、プレスリリースにこういったストーリーを描きたいからこの商品のすごさはこうあるべきだよね、と言った感じです。社会的世論やストーリーを盛り込んだ方が、メディアは取り上げてくれやすく、消費者うけがよくて。
だからこそ企業とPRが組むと、社会により求められやすく、社会にとってよりよい商品ができあがるんです」
“いいもの”というのは世の中に溢れでているからこそ、うまくストーリーを設計することが今後は大事になってくるのだろう。メディア側が取り上げたくなるもの(=社会や消費者が求めている情報)を発信していくことは、今後大きなキーとなってくるのだ。
また、うまくPRしていくために、まずは「会社はどうあるべきか」というビジョンやミッションを洗い出すことも必要だと高田さんはいう。
ビジョンとミッションがしっかり定まっていない会社も多く、そんな時には高田さんはワークシートを使うそうだ。そのシートには、「貴社のビジョン」「解決したい社会(業界)課題」「社会課題を解決するコンテンツ案」の3つの問いが書かれており、それを埋めていく中で、だいたい固まっていくと教えてくれた。
「企業の方にビジョンを問うと、あたりさわりのない綺麗な答えが返ってくることがあり、その答えと解決したい社会課題にギャップがあるパターンがあるんです。だからこそ、自分のやりたいことと会社のビジョンをしっかり合わせていくことを大事にしています。
それに、社会課題を解決するコンテンツ案を決めれば、PRで使うネタがたくさん出てくるんです。
この3つのシートをしっかり押さえておけば、誰でもPRできるようになりますよ。」
また、高田さんはストーリー作りも大切にしていると言う。
「商品のストーリー」「会社のストーリー」「開発者のストーリー」「利用者のストーリー」の4つを考えるのがベストだが、全部考えるのが厳しい場合は「商品のストーリー」だけでもよいのだとか。
加えて、右脳と左脳をうまく使い分けることもPRを紐解く一つのポイントだと教えてくれた。
おいしそうに写っている写真を見て「おいしそう」「食べてみたい」など、感覚的に思うのが右脳的訴求方法だ。
一方で左脳的訴求方法は、PR的な考え方をプラスしていることから社会的な世論(食品ロスやSDGs)を取り入れる方法だ。例えば、選挙に行ったらタピオカが半額になるキャンペーンを打ったり、ヨーロッパのナチュラル・ミネラル・ウォーター「ボルヴィック」が行った”1リットルの水を買えば、アフリカに10リットルを配る”という視点で発信したりである。
人は、時と場合や思考性によって響くポイントが異なるため、右脳と左脳の働きをうまく利用することがポイントであり、だからこそPRと広告を両輪まわした方が効果的なのである。
プレスリリースとメディア内覧会
次に、その商品の魅力をプレスリリースやメディア内覧会などでメディアに伝え、メディアへの掲載獲得に繋げていくのも PRの仕事だ。
社会的世論をうまく組み込んだ「商品開発のストーリー」や「原材料のストーリー」などをプレスリリースに盛り込み、メディアの興味を引き立たせるのがプレスリリースの役割となる。
また、店舗オープンに先立ち、メディアやインフルエンサー限定で取材の場を提供する「メディア内覧会」も、メディアへの掲載獲得に効果的だ。
メディア内覧会では、看板商品の無料お試し、店舗内観外観の撮影、担当者インタビュー、物撮り用コーナーなどを設けることが一般的。取材ポイントをこちらから提示することで、露出する際のイメージの提示にもなるのだ。
「モノ売り」から「コト売り」に変えることが商品価値を高めるといわれている昨今。
企業が何を考え、どんな想いで商品を販売しているのかが重視されている現在では、PRという視点は切っても切り離せないだろう。
話し手
高田 涼平 氏
(有限会社高菱技研 取締役)
聞き手
杉守 一樹
(IT ビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、株式会社 Dynave 代表取締役)