#50

2021.02.22

美とクリエイティブ

担当ディレクター:福島 健一郎
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

2021年02月22日、第50回は、
「美とクリエイティブ」
聞き手は、福島 健一郎。
今回は「印象美」という価値観を軸に、人財育成から商品開発まで幅広くご活躍されている
小西敦子さんから「美とクリエイティブ」についてお話をお伺いしました。

【ゲストスピーカー】
小西 敦子 氏(株式会社WORDROBE 代表取締役 印象美@プロデューサー)

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これまでの経緯

金沢市で生まれ育った小西さんは短大卒業後、1年間のアメリカ留学を経て日本へ帰国。
帰国後は製薬会社に勤めながら、司会やラジオにも従事し、
27歳でエフエム石川の大きなラジオ番組のメインパーソナリティーに抜擢されたことをきっかけに会社を退職して独立した。

独立後は、司会者やラジオやテレビなど様々な仕事をこなしていったが、44歳あたりで「このままではだめだ」と思った小西さん。
「このまま進んでも、これ以上のものは求められておらず、自分がこれ以上成長したところで仕事の幅が広がる気がしなかったんです。ここからは、今まで培ってきた何かを使って仕事ができないかと考えるようになりました。」
そこで一念発起。コミュニケーショントレーナーの勉強を学び、資格を取得した後、自分の会社を立ち上げ、人材育成などに従事することとなる。
「実はトレーナーになるまでは、自分の言葉で話したことがなかったんです。司会をしていましたと言うと『司会者であれば話すのは得意ですよね。』と言われることも多かったんですけど……。司会者はスポンサーがいる上で、そのスポンサーのスピーカーになるわけなんです。スポンサーの意図を正しく受け止めて、正しく皆様にお伝えするというのが司会者の仕事なんですよね。だから、自分の言葉ではなかったんです。」
だからこそ、今までは自分の言葉で話し、人に興味をもってもらえるということに自信が持てなかったと小西さんはいう。
「でも実際に自分の言葉で話してみると、蓋が取れたように、とても幸せな気持ちになったんです。『私は自分の思っていることを言葉にのせて人に伝えたかったんだ』『自分が正しいと思っていることを人に話すことが、こんなにも幸せに感じるんだ』ということをその時に初めて知りました。」

これまでの「印象美」(他者と自分との間にあるもの)

印象美という価値観を軸に、今では幅広く活躍している小西さんだが、自身の印象美の価値観はコロナ禍で大きく変わっていた。そんな印象美の秘密を一つずつ紐解いていく。

小西さんが最初に「印象美」という価値観をもつようになったきっかけは、ミスユニバースのイベント集客に失敗したことだった。
「トレーナーの仕事を始めた初期にきたお仕事がミスユニバースの石川県代表の方に話し方やスピーチ、立ち振る舞いなどを教える事でした。まずは、石川県でのミスユニバースの大会開催を周知するためのイベントを「ビューティーセミナー」というタイトルで公募したんです。でも全く集客できなくて。きっと『自分には敷居が高い。ビューティーじゃなきゃ行っちゃいけないんじゃないか』と思う方々が多かったんでしょうね。」
そこで、思いついたのが「印象美」だった。
「印象美」であれば、造形という点にフォーカスしていないからこそ、自分が綺麗でなければいけないという固定概念も持たれず、老若男女も問わないと思ったのだ。
そして「印象美セミナー」という名前でイベント募集をスタートしたところ、200名の会場に一気に300名ほどから申し込みが殺到。そこで初めて「印象」という美しさに興味ある方がこんなにもたくさんいたことを知ったという。
しかし、最初はそこに哲学がなかったため、「印象美」を育てていく必要があった。
「最初は『印象美』という言葉を、『他者と自分との間にあるもの』だと思っていたんです。今まで、シンポジウムや開通式、ファッションショーのなど多種多様な司会をやらせていただきました。司会をする中で、TPO に合わせた自分の印象をその場面で提示できれば、周りの人も安心して仕事も任せられるという、最初の安心を勝ち取ることができます。最初の安心を勝ち取ることができると、私も安心して仕事ができるとわかっていたんですよね。そういったことを、司会やアナウンスのお仕事をしているときに感じ取っていたので、私と他者の間にあるものが印象だと思っていたんです。だから最初は、たくさんの方にそういったことをお伝えしていました。」

これからの「印象美」(自己と自分の内側にあるもの)

しかし、ある時ふと、それは違うのではないかと感じた小西さん。

「印象は人と自分を繋ぐものでもあるけれど、もっと大切なことがあることに気がついたんです。それは、『自己と自分の内側にあるもの』です。自分の人生であったり、自分という存在がいかに素晴らしい印象だと自分自身が感じていくことだったりするんじゃないかと思ったんですよね。」

この感覚は、コロナ禍を通してさらに強くなったのだとか。
「コロナ禍で、おうち時間が増え、時間にも余裕ができたことにより、自分の幸せの器の大きさをしっかり理解できたのは大きかったですね。私は、小さい器にもりもりで幸せを十分に感じられるタイプだったことに気がついたんです。」
そう思い始めた頃にコーチングの勉強を始めた小西さん。その際、恩師に言われた言葉が、小西さんの今の人生の大きな指針となっているのだそう。
その言葉とは、「言葉とイメージのプログラムで現実はできている」だ。この言葉を聞いた小西さんは、雷に打たれたような衝撃と気づきを得たのだとか。

それを象徴した話がこちらだ。
ある日、小西さんは藍染アーティストの友人へお祝いとして、石膏の鳥のオーナメントをプレゼントした。壊れやすいものだったので、かなり厳重に梱包して贈ったのだが、友人の手元に届いた時には尻尾がパッキリと割れてしまっていた。
「今までの私であれば、割れて届いてしまったことにかなりショックを受けていたと思うんですよね。お祝いで贈ったものなのに、縁起が悪くて申し訳ない気持ちでいっぱいだったと思います。」しかし、友人が発したのは意外にも「僕にとってはパーフェクトな状態で届いた」という言葉だった。
尻尾が折れていることはマイナスでは決してなく、むしろそれがパーフェクトだというのだ。彼の頭の中では、鳥の胴体を碧く染めて、尻尾の部分だけ白いままに残そうという発想転換が生まれており、割れて届いたこと自体がプレゼントとして変換されていた。

「それを彼から言われた時に、とても素敵なイメージが沸いたんです。起きている現実は同じでしたが、私はその出来事に対して言葉では“不良品”というラベルを貼りました。そしてイメージは、“縁起が悪い”でした。でも彼は、“パーフェクト”という名前をつけてくれて、“最高の贈り物”というイメージをもってくれたんですよね。」

この出来事をきっかけに、同じ現実の事象でも、受け取る側の捉え方によって言葉のイメージのプログラムがまったく違うことを知った小西さん。
これまでの人生や考え方が、捉え方ひとつでまったく変わることを深く感じとったのだった。なぜ彼はそんな素敵な考え方ができたのか。それはきっと、アーティストだからこそ、いろいろな美術館やアート作品をたくさん観てきたが故なのかもしれない。

腕は無いけれど、それを魅力としている作品も多くあり、だからこそ彼は一部分が欠けていても不良品だとはまったく思わなかったのだ。これまでに蓄積されたたくさんのアーカイブの中から、彼はそれを瞬時に感じて引き出し、色を塗り分けることを思いつくことができたのだろう。

美しいものを見ていると、これほどまでに余裕が生まれることを知ったと言う小西さん。美を磨くと、感覚の広がりや感じ方の違いを生み出せるようのなっていくのである。言葉とイメージのプログラム次第で、人生はいくらでも大きく変わっていくし、みんなも変わっていくのだ。

「『印象美』では、外から内側の自分の自己と美学に美しく見えるというイメージももちろん大事です。でももっと大切なことは、自分の人生や自分自身という存在をいかに美しいものとして捉えることができるように、言葉やイメージで自分の人生を変えていくことができるかなんです。それはもう自分のコントロールの問題なんですよね。それができるような方々を育てていきたいし、そういった方々の援助をしていきたいと思っています。」

「オーダーメイド」がキーポイントに。洋服の仕事に行き着いた訳

最近は洋服を作ることにハマり、オーダーメイドの服も手掛けている小西さん。

「もともと、私は自分の体形に自信がなかったんです。体の各部位のサイズがそれぞれバラバラだったので、自分の体形に合う洋服を既製服から探すことが難しかったんです。試着すればするほど自分のことが嫌いになってしまって……。店頭に並んでいるものはとても素敵に見えたのに、自分が着るとしっくりこなかったんですよね。」

試着するたびに自分を責めていた小西さん。気づけば、実際に店頭に足を運ぶということを一切しなくなり、ネットショッピングだけで洋服を購入する生活に変わっていったという。

そして今から4年前、オーダーメイドの洋服を自分用に初めて作った小西さんは、猛烈な感動を覚えたのだそう。
「オーダーメイドの洋服は自分自身の体のダメなところと一切向き合わなくていいんです。自分の体に合わせて作ってくれるものですからね。
考えてみれば、既製服というものは標準体型であればあるほど優秀なんです。つまり平凡であればあるほど優秀というものなんですよね。私たちは、平凡を目標にして『平凡最高!』と思いながら洋服を買い続けてきたのかなと思いました。風の時代にも入り、標準から外れているものが武器になってきた昨今。平凡というのを大切にする文化はもうおしまいだなと感じたんです。」

オーダーメイドの洋服を通して長年の悩みが解決できたことは、今までの人生がひっくり返るかのような驚きだったという。あまりの嬉しさに、かなり熱狂したのだとか。

そんな経緯から、「こんなに素晴らしいものはみんなに伝えたい」という気持ちがムクムクと湧きあがり、気づけば無償で大切な周りの人たちに、「オーダーメイドの洋服を作りませんか」と声をかけ、少しずつオーダーメイドの洋服を広めていった小西さん。

「作ってあげた方が喜んでくれるんですよね。今までコンプレックスだった部分が強みでもあり、個性でもあると思ってくれた時がとてもうれしくて。これを人生のひとつの指針として、そして仕事としても進めていこうと思えたんです。」

オーダーメイドの洋服は、今までコミュニケーション研修をたくさんしてきた中で、なかなか達成できなかった「自己肯定感」を一瞬にして格上げしてくれる力も同時にもっていたことにも気づかせてくれた。
「洋服は一瞬のマジックなんです。自分にぴったりなふさわしい服を着た瞬間に、今まで自分が自分を低く見積もっていたことに一瞬で気がつくんですよね。この事業は、洋服を売っているという感覚はまったくなく、人材育成だと思っています。
その人が洋服と向き合うなかで、自分の苦手な部分よりも、自分の良い面に目を向けさせてあげる。そんな流れを作っていくために日々注力を注いでいます。」

そんな小西さんは現在、東京で初めてのドレスを作った時に縫ってくれたコンシェルジュと、その時にオーダーメイドの世界へいざなってくれたデザイナーと一緒に洋服ブランド「coccinelle.(コクシネル)」を立ち上げ、一緒に事業を進めている。
そんな小西さんの今のテーマは、『自分が変わるんじゃない、初期設定に戻すんだ』である。

「私たちが生きていく過程のなかには、様々な経験や思い込みを気づかないうちにたくさん抱えながら日々を過ごしている人が多いと思うんですよね。
たとえば『あの人が嫌い。この人も嫌い。』みたいな感覚。でも、そういうものって赤ちゃんの頃にはなかったはずなんですよね。
でもお母さんが作ってくれる料理などで『これは嫌い、これは好き』みたいな感覚は、子どもの時からあったと思います。これは、外側からの情報によって作られたものではなく、自分の本能で好きか嫌いかを選んでいるんです。それこそが、その人にとっての初期設定なんです。」

外部の情報は一切関係なく、純粋に自分が好きか、嫌いかだけであり、自分自身が素の状態に戻し、判別できるようになることが初期設定なのだという。

大きな変動を繰り返す昨今では、今まであったひとつの正しい答えというものがなくなってきている。
何も答えがないこの時代に、私たちは何を仕事として何を作っていくのか。誰にも影響を受けていない、自分自身の心が歓喜するなにかを基盤としながら、自分自身が好きでたまらないものや、大切だと思って揺るがないものをストーリーとして、人へ提供していかなければ、選ばれない時代になってくると小西さんは力説する。

今後は、「人生を変えるものを作っていきたい」と、目を輝かせながら話す小西さん。
「人生を変えるなんて、大それたことだと思うかもしれません。そんな方は自分にとっての“理想”を見つめ直してみてください。『自分はこうありたい』というBeing(あり方)の先に自分の人生を変える何かに出会えるかもしれません。その”何か”は人それぞれ違います。ポイントは、その”何か”に出会うことによって「それ(何か)に似合うようなふさわしい自分になろう」と感じられるかどうかなのだと思います。」

“何か”。それは言葉であるかもしれないし、物であるかもしれない。その人にとって、それが何であるのかはわからない。それは個々の巡り合わせであり、自分の人生を印象美な物語につくりあげるために必要不可欠なものであるのだろう。
自分の人生を愛し、「わたしの人生は美しい」と思える日のために、美を磨いていきたいものである。

話し手
小西 敦子 氏
(株式会社WORDROBE 代表取締役 印象美@プロデューサー)

聞き手
福島 健一郎
(IT ビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター
アイパブリッシング株式会社 代表取締役)

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