#48

2020.10.13

起業 → 事業にアップデートするために必要なコト~連続起業家の視座~

担当ディレクター:杉守 一樹
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

2020年10月13日、第48回は、
「起業 → 事業にアップデートするために必要なコト~連続起業家の視座~」
聞き手は、杉守 一樹ディレクター。
大手金融機関を退社後、IT ベンチャー、Web システム開発、レディスファッションブランドを設立し、今はドローンを飛ばしてイベントを演出する会社を立ち上げた山本さん。
起業家として様々な経験を積んできた山本さんから、これから起業を検討している人達へ
「これだけはやったほうがいい」ということをお話ししていただきました。

【ゲストスピーカー】
(山本 雄貴 氏 / 株式会社ドローンショー 代表取締役社長)

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これまでの事業の軌跡

金沢生まれ金沢育ちの山本さんは、上京して大学で経営工学を勉強。
その後、大手銀行に勤めるも、銀行の世界に馴染めずにいた。
一方で、銀行勤めをしながら事業プランを作成。
休日になれば投資家とアポを取り、
「こんな事業をやりたい」と手当たり次第プレゼンを行っていたという。
そんな中、とある投資家から「本当に銀行員をやめて、事業を立ち上げるのであればお金を出す」と言われ、1000 万円の資金調達に成功。これが、最初の事業のきっかけだった。

① 2007 年~2010 年(はじめてのスタートアップ)
最初に立ち上げた事業は「Hot.Docs(ホットドックス)」という、
みんなで創る文書図書館だった。
このサービスは、簡単に言えばドキュメントファイルのYouTube みたいなもの。
研究論文を集めて共有したら面白いのではないか、
と始めたサービスだったが、意図していなかった方向へ進んでしまう。
しかし事業を進めるなかで、運よく中国の検索エンジン「Baidu」という会社から買収の話をもらい売却することに

② 2010 年~2012 年(モバイルゲームの栄枯盛衰)
「Hot.Docs(ホットドックス)」を売却した当時は、
モバゲーやグリーといったモバイルゲームの波がきていた時であった。
当時はモバイルゲームのバブル期と言われ、新しいゲームを出せば売れる時代。
「モバイルで遊べるゲーム」というだけで画期的だったこともあり、見よう見まねで作ったゲームが面白いくらいにポンポン売れたという。
「例えば製作費500万円ほどで作ったゲームを出したら、初月でいきなり1500万円の売上が出たことも。出せば出すほど良い、というサイクルができていたんです。」
その後、モバイルゲームのバブル期が崩壊。ゲーム業界を離れることを決意することになる。

③ 2012 年~2017 年(非ゲーム系でヒット!IPOへ)
次に挑戦したのは、東京のとあるマーケティング会社から依頼いただいた、新規事業部の立ち上げだった。
エンジニアなど、仲間を集めてチームを結成し、「非ゲーム系のエンタメアプリ」を切り口に、アプリ開発のチャレンジをすることに。
その中で行きついたのが、今ではメジャーな「メルカリ」のようなフリマアプリだった。
しかも、あろうことか自社アプリであった「ママモール」と「メルカリ」のリリース日が被ったこともあり、その後「ママモール」は撤退することに。
その後、メルカリと競合する中で得た経験をもとに、課金できる占いアプリを開発した後、会社を上場させた。

④ 2017 年~2019 年(フリーランス新規事業屋)
東京での仕事が一区切りついた後、次へ投資できる資金をもって石川県へ帰郷。
東京で得た資金を使い、今度は石川県で東京に負けないようなテーマで勝負しようと決意していた。
しかし、これまでのご縁もあり、石川県に戻った最初の2年間はフリーランスとして活動。
自分のやりたいことも模索しつつ、レディスファッションブランドの設立やアプリの立ち上げなどに携わっていた。

⑤ 2020 年現在~(株式会社ドローンショー設立)
そして現在は、株式会社ドローンショーを設立し、代表取締役社長を務める。
ドローンショーとは、ドローンを自動制御し、LED のついた何十台ものドローンを空に飛ばして行う、花火大会のようなイルミネーションショーのこと。
海外では数年前からメジャーになってきてはいるが、日本でドローンショーを開発している会社はまだ他にない。
国内初のドローンショーを開発する会社として、
株式会社ドローンショーの新しい挑戦は始まったばかりだ。

数々の新規事業を立ち上げてきてわかった事

現在進行中である「ドローンショー」という新規事業の魅力について問うと、
「ドローンショーのようなエンタメ分野は、自分のなかでワクワクするもの」と答えてくれた山本さん。
「最初のきっかけは、たまたまYouTube で見た海外でのドローンを使ったショーが目に留まったことでした。『ドローンを見て楽しむ』という概念が今までなく、見つけた時は、衝撃とともに、単純にワクワクが止まらなかったんです。『ドローンを操作する』のではなく、『ドローン自体を見る』ことが商売に繋がるのではないかとハッとした瞬間でした。」
実は、初めはドローンで何かをやりたいと思っていた訳ではなかったのだそう。
東京で様々なビジネスを見てきた中で、東京では簡単にできないような、
石川県ならではの事業を石川県で作りたい気持ちが強かった山本さん。
石川県から新しい産業を作りたいという思いを持つ中で、行き着いたのがドローンだったのだ。

「ドローンは法律がとても厳しく、人が多い場所だとなかなか厳しいビジネスです。かと言って過疎地すぎてもマーケットが育たない。そんな中、石川県は都心部にはある程度人が集まっていながら、車で10 分から20 分ほど走れば自由にドローンを飛ばせる環境が整っているんです。」
ドローンショーの映像を見てピンときたのは、日頃から常にアンテナを張っているから。
「新しいテクノロジーが生まれた」とか、「こういうビジネスでこれくらいの資金調達をした」とか、そういった情報を常に押さえておくことは、新規事業を起こすにあたってかなり重要なこと。
新規事業を自分で起こそうと思った時にまず大切なのは、日頃を含め、徹底した事前調査である。
海外を含め、同じような事例がないかを徹底的に調べあげることは、起業家にとって欠かせない。
しっかりと調べた上で勝負できると確信したのち、それを実現するために必要な人や資金をさらにリサーチしていくのだ。

「僕は、アイディアに価値はないと思っています。アイディアそのものではなく、それを誰よりも早くやることに価値があると思うんです。アイディアさえ決まれば、あとはやりたいことの詳細と、仲間を探していることをいろんな場所で言いまくるだけ。今回も金沢中で言いまくっていたら、色々と紹介していただけました。」

新規事業を思いついても、人がいないことには事業を進められない。
だからこそ仲間を増やすためには、「何でその事業をやるのか」という自分の思いをしっかりと持ち、それに共感した仲間が集まる、という流れを作ることが重要だ。
「まず起業家の思いがあり、その上に理念があって、そこから人が集まって、物ができて、お金が集まる。この流れの通りやれば、うまくいくと思っています。仲間を口説けるじゃないですけど、一緒に盛り上げることができないような事業であれば、一旦立ち止まった方がいいですね。」

こうしておくべきだったという事

「ベンチャー企業での採用の際、やってもらいたい仕事に対して人を探すという考え方は、やめた方がいいと思っています。ベンチャー企業だと、いまある事業自体が変わる可能性が高いですからね。どんな職種になったとしても、キャッチアップして一緒に高めてくれる人を探すことが大事です。『事業の目的を達成するために、自分のできることはやります』と言ってくれる人の方が、ベンチャーにはマッチすると思いますよ。」
また、立ち上げ当初はリサーチがとにかく大事だと口酸っぱく言う山本さん。
いろんな事例から、立ち上げ後の価値をしっかりと探り、そこから逆算していくことの大切さを説いてくれた。
「どのタイミングでいくら必要であるのか。そして、どのタイミングでどれだけの資金があれば次のステージへ上がれるのか。つまり事業計画ですよね。事業計画は、銀行やベンチャーキャピタルにみせるために適当に作るのではありません。『自分の事業をこういうふうに成長させたい』という本心をしっかり落とし込み反映させていくことが重要なのです。私はこの年になって、ようやくそれが大事だと思うようになりました。」

やると決めたらとにかくスピード重視で行動に移していくことも重要だ。
自分の直感力を信じきり、走りながらでもすぐに行動に移していく。
早い段階でたくさん失敗しておくことも肝心だ。ダメならダメでサッと引き、
次を考えれば良いだけである。
このサイクルをいかに高速で回していくかが、経営者にとって肝であるのだ。百発百中でなくていい。とにかくたくさん打席に立てば、どこかでヒットは出るはずだから。

自分の手を動かす → 組織を動かす へ変わる時

口酸っぱく言うが、経営者はスピード感をもって会社の意思決定をしていくことが大切だ。
それに徹するため、組織として自分ができない部分は、信頼して誰かに任せるようにしているのだとか。
任せた部分に関しては、基本的に一切口を出さないという山本さん。
困っている時はもちろんサポートするが、基本的には主体性を持たせ、
「任せきる」ということを大事にしている。
まずは任せ、一歩下がりながら見守り、もし迷ったり大変そうにしていたりすれば、自尊心を傷つけない形でサポートしていく。そういったサイクルを通して、人が育ち、組織が動いていくのだ。
その循環をいかにうまく作っていくかも経営者の腕の見せ所。
チームで動く中で、いい兆しが出たら、トップとしても経営者としても、そこをもっと盛り上げるような具体策をとることも、大事にしているのだそう。
コンビニでちょっとした差し入れを買ってきたり、個別で話を聞く時間を見つけたりなど、率先して使い走り役を担うことも経営者の役割。その一つ一つが、信頼の積み重ねになり、良い組織へと繋がっていくのである。
さらに経営者として鍵となるのは、最初の火を起こしていくこと。
まずは、いち早く意思決定をして方向性を定め、みんなを巻き込んでいく。
これはもう、トップである自分にしかできないことだと山本さんは言う。
あくまでも経営者は意思決定をする立ち位置である。
チームの先頭を切り、舵をとり、いかにチームを潤滑に動かしていくかがキーポイントだと教えてくれた。

事業を成長させるために重要だと思うこと

事業設計の段階であれば、まずは思いついたことを繰り返しやっていくことが重要だ。
その中で、さらに成長しそうなポイントを掘り当てたら、そこに対して思っている10倍ほどのお金をかけることも大切だということを、過去の経験から学んだという。
一般的には広告効率を考えてしまうが、効率より面を重視することも時には効果的になってくるのだ。
また、あまり外で言えないことではあるが、事業を成長するためには泥臭いステマも重要だと明かしてくれた山本さん。
サービスで一発当てている起業家は、なにかしらこういった泥臭いことをしているのだと言う。
胸を張っては言えないが、成功している人は皆、こういった地道な泥臭い努力をしているからこそ、事業がさらに成長するのである。
スタートアップと言えば、キラキラした世界を思い浮かべる方もいるかもしれない。
しかし、実際はかなり泥臭く、この泥臭いことを忘れずにやることが大事であるのだろう。

これから事業を始めたい方に一言、アドバイス

今後はドローンショーを通して、観光産業ならず人が起こす産業の方面からも石川県を盛り上げていきたい、と強い心意気を語ってくれた山本さん。そんな山本さんから最後にエールをいただいた。
「とにかくまずはやってみてください。失敗したからと言って、死ぬことはありません。やった結果、積み上げた結果がダメだったからと言って、後に引けないこともありません。それは過去の時代までのお話。『たくさん失敗して、たまにうまくいけばいい』くらいの気持ちでやればいいんです。まずは、やってみることから始めましょう!」

話し手
山本 雄貴 氏
( 株式会社ドローンショー 代表取締役社長)

聞き手
杉守 一樹
(IT ビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、株式会社Dynave代表取締役)

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