#44
担当ディレクター:福島 健一郎
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。
2020年5月3日、第40回は、
「釜戸の火は消さない!〜新型コロナウイルス感染症の中での飲食店サバイバル〜!」。
聞き手は、福島 健一郎ディレクター。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日本中に広がる中で、現在、多くの飲食店が苦境に立たされています。
今回のモチモチトークでは、facebookグループを活用して市内のテイクアウトやデリバリー情報を集め、飲食店とお客様をつなぐ活動の内容や今後の展開などをお聞きします。
また、初の試みで「Zoom」を利用した対談をリアルタイムで配信し、参加者にもオンラインでトークを楽しんでもらおうと企画しました。
飲食店関係者の方はもちろん、金沢の食を愛する方は必聴です!
金沢市木倉町で韓国料理店「Issekisanchou di bar」を約20年営業してきた湊さん。
2016年には韓国料理の世界大会に日本代表で出場し、トップ10に入る。
モデル業、メディア出演、イベントのMCなど幅広い活動も。
「何屋かさっぱりわからんよ、という感じでやっています。」
大学卒業後、不動産、自動車、飲食関係などで10年ほどサラリーマンをしていた湊さんは、何かで独立したいという強い思いを持っていた。
飲食を独立のアイテムとして選んだのは、資格としてハードルが低かったことや、学生時代のアルバイトで飲食業の楽しさを味わったこと、そして、韓国料理を学べる縁があったことが大きなきっかけとなった。
当時、金沢には焼肉店はあったが韓国料理の店はほとんどなかった。誰もやっていない業態にビジネスチャンスを感じ、単身で韓国へ1年間の修行に行き、その後、木倉町で店を構えた。
釜戸の火は消さない!
現在、湊さんは「釜戸の火は消さない!金沢の全ての飲食店の情報をまとめましょう」というタイトルのフェイスブックグループを運営している。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)による営業自粛などにより経営が苦しくなっている飲食店を応援するため4月8日に立ち上げたこのグループは5月3日現在、2758人が参加している。
コロナの影響で金沢の店舗が営業しづらくなってきた頃、湊さんの個人フェイスブックのつながりで飲食店のテイクアウト情報などの投稿を見かけるようになった。
しかし、フェイスブック内で情報を投げたところでそれほど広がることはない。
情報が分断されたまま続けていても疲れてしまうと思い、とにかくまとめよう、束を作ろうと、最初はウェブサイトの制作を考えていた。しかし、サイトの制作にはタイムラグが伴う。
そのときに手っ取り早いと思ったのがフェイスブックグループを立ち上げることだった。まずは情報を束ねるためのグループを立ち上げ、自分の友人から招待をした。
当時、全国ネットで飲食業の人が集まって飲食業界を守ろうという大きなグループはあったものの、石川県内、金沢市内でそういったグループがなかったこともあり、タイムリーな発案により広がりが加速していった。
福島)ご自身も正直言って楽ではない状況の中で、
なぜ、手のかかるコミュニティづくりにエネルギーを割こうと思われたんですか?
「幸か不幸か、私のお店はそれほど大きくないんですよ。基本は私1人とアルバイトスタッフ1人でなんとかやっていけますし、毎月大きいお金が出ていくわけではないんです。プラス、僕にはもともとテイクアウトをやるという選択肢はなかった。だから、テイクアウトをがんばっているお店に比べると若干、精神的に余裕があった。長い間、飲食業をやってきたなかで紆余曲折もあったので、自分なりにこの状況を冷めた目で見ているところがあるんです。 今回、僕が特別にがんばったというよりも、運が良かった。飲食業以外の方がシェアや投稿を積極的にやってくれました。僕は毎日夜にその日にあったことや思ったこと、今後の展望についてのメッセージを投稿していますが、特別このことに力を入れすぎているわけではありません。」
コロナの経済被害に対して、一人で何かしても変わることは難しい。 このグループは、みんなで考えて、みんなで解決していくための場所にしたいと湊さんは言う。
飲食店が生き残るための道筋
現在、湊さんの店では売り上げが通常時よりも9割減。周囲のほとんどの店が利益は半分以下になっているのが現状だという。
今回のコロナ危機は予想外の出来事で準備期間もなにもなく、ビジネスモデルがない。
パラダイムシフト(もともと信じていた基盤がひっくり返って新しい仕組みをつくる)の状態だ。
しかし、安易にこれまで経験のなかったテイクアウト事業に手を出すことには慎重になってほしい、と湊さんは警告する。
テイクアウトがメイン、またはテイクアウトとイートインを半々でやっている業態は大手企業が多い。
これまでイートイン中心でやってきた地域の小さな飲食店がいきなり転換してもそこには勝てない。
容器一つとっても、今までやっていた人たちは割安の容器を持っている。今からやろうとする人たちは新たに容器を探さなくてはいけない。そのコストは意外に高くつく。
さらに、お弁当は冷めてからフタをしめないといけないため時間が必要になるなど、様々なコストがかかる割に、それほど儲からない。その上、デリバリーをやろうと思ったら、ほぼボランティアになってしまう。
特に500円~1000円の価格帯では大手企業との差が大きく、勝負にならない。しかし、ほぼボランティアであっても、やらないよりは、それをやるしかないから今はやっているという苦しい現状のお店が多くある。
「テイクアウトについて私の考えをお話しします。あえて嫌な話をさせていただきます。」
今、ぜひ飲食業の方々にやっていただきたいのは、お金(キャッシュ)の状態をチェックすることだと湊さんは言う。
4月からテイクアウトのビジネスを始めてきたとして、どれくらい利益が出たかが見える時期になった。この利益で最低限払わなくてはいけない経費を払えるのか?
もし、払えていない状態だったら、そのテイクアウトの仕事は勇気を持って一旦止めて、虎の子のキャッシュを守るために、家賃や光熱費、人件費、など支払いの交渉をできるだけしてほしい。キャッシュが流出していかないように。まず、それが第一。
例えば家賃。「敷金を前払いしている分の期間、待ってください」と交渉してみてほしい。光熱費もぜひ交渉してほしい。何か月待ってもらえるか、ちゃんと聞けば今なら親身になって聞いてくれるはずだ。
「それで、もし話が通らないようだったら、僕らのグループに投稿などして相談してください。そしたら僕が皆さんの代表者として交渉してもいい。行政に対してもそう思っています。」
そうして作った時間で、助成金や融資、給付金、などの救済措置の申請(生き残るためのネゴシエーション)に全力を注いでほしい。
慣れないテイクアウトをやりながら資金繰りに関する雑務もする、そうやってどちらも取ろうとすると、メンタルが持たない。
「お店を再開できるようになったときに元気がなかったらどうしようもないんです。今優先してやるべきことは体と心をプロテクトして、健康な状態を保つ努力をしていただきたい。それが一番最初のお願いです。」
今後、飲食業が生き残っていくための道筋を湊さんは短期、中期、長期で考えているという。
短期のプランとしては、料理人が持っているノウハウとキャラを商品に変えるということ。
「僕は、飲食店の商品は出来上がった食べ物ではない、と思っています。おうちで作るラーメンよりもお店のラーメンがおいしいのは、食材(モノ)にノウハウを乗せて、おいしく変えているから。僕らの価値であり商品はその『ノウハウ』なんです。」
そこで、ノウハウをお金に換える方法として、料理人が家庭へ行って、家にある常備菜を使って料理をする。または料理を教えに行く、というアイデアを提案する。
1時間から2時間あれば多くの品が作れる。1回3000円として、1日3軒行けば9000円、20日稼働で18万円。この18万円はほぼ満額利益になる。
感染予防対策を徹底して訪問し、家にいる子どもたちにおいしくて安全な食事を提供する。 フェイスブックグループを利用して個人間でやりとりすれば仲介手数料もかからない。
「ノウハウとキャラを伝えるためにこのグループを使ってほしいと思っています。自分のPR動画などをスマホで撮って、アピールしてほしい。それは商売なので個人努力です。皆さんにはこのアイデアに肉付けをしていってほしいので、ぜひご意見やご指導をいただければと思っています。」
中期のプランは、金沢の飲食業のサブスクリプション。
サブスクリプションとは、毎月定額のお金を払って、ずっとサービスを受けられる仕組みのこと。例えば、動画の定額配信など。
毎月、グループ内で1000円でも2000円でもサブスクリプションにお金を入れてもらう。それぞれのお店は調理の派遣、テイクアウトなど、現在提供しているサービスの中からお得な割引サービスを提供する。
サブスクリプション内のお金は会員に均等に分ける。そうすると、売り上げ外のお金が各飲食店に流れていくことになる。現在のサービスに対して、月会費で私たちを生かしてください。というサービスだ。
サービスに対して双方が受益を受けられるため、コロナ終息後も継続性がある。
長期のプランとして、ミクロでの案はクラウドファンディング。
もし、どうしても継続できない店があれば、傷が大きくなる前に一旦ギブアップしてもらいたい。出血多量で死んでしまう前に止血して、一旦店を閉め、そこからクラウドファンディングで資金を集めて復活する。ノウハウとキャラを商品にしているからこそ、V字回復することができる。
長期プランのマクロでの案は、地方債の発行。
「乱暴なことですが、金沢市に地方債を発行してもらいたい。独自の通貨を発行して、コンパクトな経済圏の形成をしていきたい。これについては今後、専門家の意見も聞いて、みなさんのご支援とご協力をいただいて、実現していけたらと思っています。」
まずは地方債を利回りなしで、その代わり市の施設に株主優待などをしてほしい。そして、飲食店を株主としてサービスする。そのお金でズタズタになったお店をリメイクできる予算をつけてほしい。
小さな経済圏は今注目されてきている。これからは都市単位の小さなエリアで情報交換やネットワークを築き、自分たちの足元をまず強固にして回していくのが大切になっていくだろう。
現状、人手がなくて田植えができないところもある。そこで、困っている農村に手伝いに行く、そして米をもらう、そんなことがもう始まっている。物々交換に倣う昔ながらの経済のまわり方を見直すときではないのか。
私たちは、合理的、効率的、グローバルなことに依存しすぎてきたかもしれない。
本当の価値を知っている金沢だからこそ、できることがあるかもしれない。
予想外の日々を乗り越えて、笑顔で生きていくために、私たちが今できることは何なのだろうか。
話し手
湊 信次 氏
(Issekisanchou di bar 店主)
聞き手
福島 健一郎
(ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、
アイパブリッシング株式会社 代表取締役)