#33

2019.03.27

知らなかったじゃ済まされない著作権の話

担当ディレクター:久松陽一
Director’s Voice
モチモチトーク始まって以来、自分も含めデザイナーに必要な著作権の話はするべきだと思っており、やっと実現できました。リスク管理を改めることの大事さを痛感させられました。デザイナーさんは是非読んでみてください!

第33回のゲストは、漆芸工房Ohnishi Craftworks(大西工芸合同会社)代表 大西 直之さん。
香川県出身。九州産業大学芸術学部美術学科を卒業後に、福岡県のソフトハウスでプログラマー、ゲームデザイナー、プロデューサとして勤務。平成元年に金沢のIT企業に転職し、製品の企画・開発、広報、営業、法務・知財に関する業務に従事。
退職後に、石川県産業創出支援機構の知財アドバイザーや金沢大学の非常勤講師などを経て、現在は、漆芸工房Ohnishi Craftworks(大西工芸合同会社)代表を務めるほか、国際特許事務所で知財コンサルタントも務めている。

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夢は「人間国宝」!しかし気付けば「コンピューター」に熱中

高校時代には漆芸科で漆芸を学び、将来は「人間国宝」という大きな夢を抱いていたという大西さん。高校卒業を目前に先生の一言がきっかけとなり、漆芸研究所進学を断念し、九州産業大学芸術学部美術学科へ推薦で入学。大学では油絵や日本画を専攻。当時を振り返りながら、芸術からITの道、そして知財コンサルタントへと進むきっかけなどを話してくれた。

「大学へ入学してまもなく、漆器に関連するという理由もあり、仏壇屋さんでアルバイトをしていたのですが、そこの店主から『人間国宝になりたいなら、仏師にならないか』と勧められました。しかし、時を同じくして、世間にコンピューターグラフィックが出始め、友達の紹介でゲームのキャラクターをCGで描くアルバイトもするようになりました。その頃は、まだ絵を描くソフトもなかったので、自分でプログラムを行い、プログラマーのようなことをしているうちにすっかりハマってしまいました。

アニメ好きだったこともあり、いつしか人間国宝の夢も忘れ、気が付けばアルバイト先のソフトハウスに入社し、IT業界へ進んでいたのです。

当時は著作権法がまだきちんと整備されておらず、ソフトウェアの類は何にも保護されていませんでした。
つまり、コピーし放題の状況だったのです。自分の生活も守れないということもあって、そこで法律について勉強し始めました。そのような経緯もあり、金沢へ転職してからは『知的財産は大事ですよ』と公言していたのですが、なかなか理解はしてもらえませんでした。
しかし、特許庁に『知財で元気な企業100社』に選ばれ、表彰されたことをきっかけに、大手企業などとの接点も増え、会社もその重要性を理解し、部署を新設するまでに至りました。私の場合(=知財コンサルタント)は、そのような“実践での経験”をもとに、弁護士さんや弁理士さんとは違った、法律的ではない知財に関する相談や細かいサポートをしています」。

東京オリンピックのエンブレム問題あれは何がいけなかったのか?

知財問題で世間を賑わせた「東京オリンピック」のエンブレム問題は、まだみなさんの記憶にも新しいのではないだろうか。

佐野研二郎氏がデザインを手がけ、使用が取り止めとなったエンブレムと、似ているとされ盗用までを疑われたベルギーの劇場(オペラハウス)のロゴが、会場のスクリーンに映し出された。はたして、著作権や商標という点から見て、何が問題となったのだろうか?

佐野研二郎氏がデザインし使用取り止めとなった東京五輪・パラリンピックのエンブレム(左)
オリビエ・ドビ氏がデザインしたベルギー「リエージュ劇場」のロゴ(右)

「この問題については、あれだけ多くのマスコミに騒がれたわけですが、法的に見ると実際はどうなのか?企業の法務などを何度も担当した私の立場から申し上げますと、似ているとされたベルギーの劇場のロゴは、商標登録はされておらず、商標法上はまったく問題はありませんでした。では、何が問題だったのかというと、著作権侵害で訴えられたのです。

はじめに断っておきますと、『法的・デザイン的な類似』と、『一般的な類似』には、まずもって認識の違いがあります。マスコミが“そっくり”や“パクリ”と安易に連日報道したわけですが、パクリ(盗用)かどうかは、“依拠”しているかどうかが問題になってきます。また、著作権法で重要な点は、訴えた側(似ていると主張した側)が、そのことを証明しなければならないという点です。つまり、『佐野さんが見て作ったこと』を証明しなければならないのです。果たしてどうやってできるのでしょうか?たぶん無理ですよね。
よって、個人的な意見ですが、裁判になっても、おそらく佐野さんが負けることはなかったのではないかと思います」

では、どうしてあのような大きな問題へと発展したのか。続けて大西さんが話したのは次のようなことだった。

「佐野さんは、著作権についての認識が甘かったのではないかと思います。なぜなら、弁明する際にプレゼンの写真を用いたのですが、その写真こそが他人のものを流用(他のウェブサイトから無断転用)しているのではないか、と指摘されたのです。
また、酷似していると指摘された別の商品(トートバッグ)のデザインに対しては『自分ではなく他のスタッフが担当した』と、会社の代表者としてあるまじき発言も問題視されました。

さまざまな局面でミスリードが見られ、もっと知識をしっかりお持ちであれば、マスコミにもきちんと反論ができたはずですし、世間を味方につけられたのではないかと思います」。

便利な世の中だからこそ「リスクヘッジ」が重要になる

自身もデザインを手がける、ディレクターの久松さんから「デザイナーたちは、時に資料として合成写真などを使うこともありますが、手を加えて、実際にないものを作る場合は、どのように理解・判断したらいいのでしょうか?」との質問が入る。

「実は、そこがポイントなのです。手を加えること自体が、もともとの権利を持っている人(=写真を撮った人や、絵を書いた人)の権利を侵害しているわけなのです。言い換えれば、もともと権利を持っている人は、“私の写真や、私の絵に勝手に手を加えてはいけません!”と言える権利を有しているのです。例え、🄬🄬や©マークが付いていなくともです。

本人に使用許可を取るか、引用のクレジットを明確に入れることで、権利の侵害は避けられますが、厳密に言うと「引用」の場合は、その範囲が超えているか否か(主体がどちらにあるか)で、判断は異なります。やはり本人に許可を取るか、自分で撮影したり、絵を描いたり、素材を起こし直しすることが1番だと思います。

例えば、最近はネットでこれだけ多くのフリー素材が簡単に手に入り、資料などで使うことも多いと思いますが、“間違いなくフリー素材なのか?”、“無意識のうちに著作権を侵害するものでないか?”という点にも十分に注意が必要です」。

「今回の件に関して言うと、商標や著作権などの法律うんぬんではなく『リスク管理』の問題だったので はないかと思います。企業としてデザイナーとして、どうリスクをヘッジするかをきちんと考えるべきだったのではないでしょうか。受け手側がどう感じるか、どう報道されるのかを考えなければいけなかったというのが、今の私の立場での意見です」

知財ってなに? 「知的財産権」とは

一般的な法学部などでは、ゼミで知財法を専攻しない限り、あまり詳しく知財に関する法律ついては習わないため、法律家や弁護士などにも知財を専門に扱う人は限られている上、東京や大阪に集中しているという。

「上の4つは、特許庁の管轄となり登録が必要です。出願し許可が下りなければ権利は発生しません。それに比べて『著作権』は、描いた瞬間に権利が発生します。例え子どもが描いた落書きだとしてもです。

権利の保有については、デザイナーが会社に所属し著作物を作った場合、それは会社の権利になります。 また、フリーのデザイナーさんなどは、お金をいただく際に“著作権を渡すか渡さないか”をきちんと吟味すべきで、料金(見積)などに『著作権譲渡を含む・含まない』と記すことでも自己防衛や権利の主張につながると思いますので、ぜひ覚えておくとよいでしょう」。

参加者からの質問で「他のデザイナーが作ったチラシを使いWebをデザインする場合」でも、最初にデザインをした人の許可をとるべきで、本人やクライアントに確認し、さらにはメールなどでカタチに残しておくとよい、とのアドバイスもあった。

知財ってなに? 「知的財産権」とは

続いて、デザイナーにとって関わりの深い「著作権」と「商標権」を取り上げ、それぞれの特徴などについて上記のような説明が行われた。

例えば、商標権の目的に「信用の維持を図り産業の発達に寄与」とあるが、わかりやすく言うと「消費者はロゴマークなどに信頼を置いて購買するケースが多々あるため、コピー品は権利の侵害にあたる」という解釈である。老舗デパートのロゴマークや、ブランド品のバッグに代表されるようなモノグラムを想像すると、よりわかりやすいのではないだろうか。

また、ロゴマークやキャラクターデザインなどでもよく目にする、以下3つのマークが入っているものに関しては、権利を主張しているものであるため、決して無断で使わない方がよいとの忠告も。

・©表記 Copyright
・🄬🄬表記 Registered Trademark
・TM表記 Trade mark

この日の最後には、キャラクターグッズに関する二次著作物を通じての権利やビジネスの仕組みのほか、誰もが知る“梨”をモチーフにした“ゆるキャラ”に関して、「音」や「文字列」で商標登録されていることなどを紹介。また、本来なら登録されない「地名」や「一般名称」を、デザイン的に図案化することで登録された事例やテクニックについても解説された。

「『著作権』は、著作物に対して著作者にしか与えられない一方で、『商標権』は、文字と図の組み合わせのため、第三者(誰でも)が勝手に登録できてしまう点には注意が必要です。
万が一、審査官がわからないと本家以外のものが登録されてしまい、過去にもそのような事例が国内外で起きています。コピー商品でよく中国などがニュースに取り上げられますが、例えば、中国などで権利の取り消しの裁判を行うとなると莫大なお金がかかってしまうため、仕事のスケールが大きくなるほど、やはり“リスクヘッジ”がとても重要になってきます」と念押しして、大西さんはコメントを締めくくった。

デザイナーや著作物などに携わる人は、法律や権利についてきちんと理解を深め、知識を持っておくに越したことはない。しかし、まずは「リスク管理」を改めることで、自分たちの仕事の場や著作物を守られるであろうし、他者の権利を侵害することもなくなるだろう。
自他ともによって大切にされるべき権利が認められてこそ、「文化」や「産業」の発展があり、われわれ一人ひとりにおいても、決してそれは他人事ではない。あらためて、そう気付かせてくれる有意義なトークとなった。

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【話し手】 大西 直之
知財コンサルタント、漆芸工房Ohnishi Craftworks(大西工芸合同会社)代表

【聞き手】 久松 陽一
ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター
(株式会社Hotchkiss アートディレクター)

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