#31

2019.01.22

世界中が大熱狂! ゲーム×スポーツ= eスポーツってなんだ!?

担当ディレクター:竹田 太志 Director’s Voice 「eスポーツ」は取り立てて若い産業・文化ですが、エンタメ・ゲーム産業が十八番だった日本は、海外のシーンと比べても、後追いになってしまっています。そんな中、若者の代表として、かねてよりeスポーツの普及活動に取り組んでいる板川さん。遊びとしてのゲームからスポーツとしてのゲームへ。若いチカラと発信力に期待しています。

第31回のゲストは、石川eスポーツサークル代表 板川 湧来さん。中学生からオンラインゲームを始め、金沢工業大学入学後に金沢工業大学eスポーツサークルを結成。その後、他大学のサークルと合流し、石川eスポーツサークルを作り代表を務める。得意なゲームのジャンルは、FPS(ファーストパーソン・シューティング)とMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)。

レポート印刷PDF

ゲームに熱中したくて、大学で新サークルを結成

最近、聞くようになった「eスポーツ」という言葉。皆さんはどういう意味か説明できるだろうか。

eスポーツとは「エレクトロニック・スポーツ」の略語だ。人間同士が行なうテレビゲームの対戦を、一 般的なスポーツと同じように一つの競技として捉えることを指す。

日本ではようやく認知されつつあるという段階だが、アメリカや中国、韓国など海外では多くのプロ選手が活躍するなどメジャーなエンタテインメントとなっている。今やオリンピックの正式種目として認定されるという噂が飛び交うほど、注目を集めている競技だ。

今回のゲストでもある板川さんは、大学生でありながら金沢市でeスポーツを盛り上げていこうと奮闘している一人だ。現在は石川eスポーツサークル代表を務め、イベントの開催やeスポーツの広報など多方面に活動している。幼いころからゲーム好きだったのかと言えば、意外とスポーツ少年だったという。

「小学4年生からサッカーを始めました。その後、野球にのめりこみ、中学3年から卓球もやりました。工業高校に進学してからは、マイコンカーと呼ばれるロボットを作って、レースに参加していましたね。オンラインゲームにはまり始めたのは、中学3年になってからです」。

高校卒業後に金沢工業大学へ進学。ゲームをやりたくてゲームサークルを探したが、金沢工業大学はおろか県内の大学にも見当たらなかった。そこで現サークルの前身である金沢工業大学eスポーツサークルを設立し、副部長に就任した。

「最初は金沢工業大学の学生のみで活動していました。そのうち他校でも小さいながらゲームサークルがあることを知り、他大学と連合で作ったのが石川eスポーツサークルです

eスポーツの定義と日本の状況

そもそもeスポーツの定義は何なのか。認知度の高い海外に比べ日本での定義はあいまいだというが、板川さんの考えでは「デジタルゲームを使った競技」という認識だ。

「もちろんゲームであれば何でもeスポーツか、というわけではありません。スコアやタイムなどで勝ち負けが明確に決まるもの、そして対戦する上でルール化ができているものをeスポーツと言っていいんじゃないかと思っています。日本では日本eスポーツ連合という団体が、『ゲーム開発元が継続してイベント運営をできるか』という定義も加えています」。

もともとeスポーツという概念が起こったのは1972年のこと。アメリカのスタンフォード大学がシューティングゲームの競技大会を開いたのが発祥とされる。

その後、1980年代にゲーム大会が頻繁に行われるようになり、1990年代にはインターネットがスタート。ネット対戦が始まることで、ゲームの競技化が加速していった。

eスポーツという言葉が使われ始めたのは、2000年に入ってからのとことだ。このころに日本のお隣、韓国では、「eスポーツ協会」が発足している。2003年には中国の中国国家体育総局がeスポーツを99番目の正式体育種目に指定した。中国や韓国では早くから、サッカーや野球など一般的なスポーツと同レベルに捉えていたようだ。

一方、日本はといえば、2007年にようやく日本eスポーツ協会準備委員会が設立され、2018年2月に日本eスポーツ協会など他団体も合流する形で日本eスポーツ連合がスタート。こうした歴史を紐解いても日本は世界的に出遅れていると言わざるを得ない。

日本のeスポーツが出遅れた4つの原因とは

なぜ日本はeスポーツの振興が進まなかったのか。板川さんは以下のように分析する。

「一因としては、日本には法律上の問題が4つあったことです。
1つ目は刑法の問題。海外では大会開催時に参加者が参加費を払い、それを賞金として分配しています。この方法は日本では賭博罪になります。また主催者側が参加費で収益をあげると、賭博場開張等図利罪にあたる可能性があるのです。
2つ目が景品表示法です。ゲームメーカーがイベントを開催する際、賞品を出す上限が10万円までと法律で決まっています。これをオーバーすると違反になってしまいます」。

イベントを開くにしてもそれなりの賞金や景品が出ないことには、参加者のモチベーションが上がらないことはおろか、参加するプレーヤーが集まらない。プレーヤーが集まらなければ、イベントそのものも集客力や拡散力も弱まってしまう。

例えば世界的に人気の高いリーグ・オブ・レジェンドというオンライン・バトルゲームの場合、賞金総額が10億円を越えるという。優勝すればプレーヤーはそのうちの4〜6割がもらえるほか、プロであればスポンサー料も入る。

「3つ目が風俗営業法です。ゲームを楽しむeスポーツカフェがこの法律に抵触する可能性がある。eスポーツは新しい分野のため、警察としてもOKを出していいものか曖昧なんですね。最後に問題となるのが、著作権です。これがいちばんやっかいだと思っています」。

サッカーや野球には、当然ながら著作権という概念がない。プレーするための用具と場所さえあれば、誰もが大会やイベントを自由に主催できる。

しかしビデオゲームの場合、そうはいかない。使用するゲームタイトルの開発元に、そのゲームを大会で使う許可を取らなくてはならないのだ。

「ゲーム会社それぞれの個別の対応になるのですが、中には窓口がなかったり、返答に時間を要したりとスムーズにいかないことがあります。かといって無断で使用すれば、著作権に引っかかります。メーカー側も、現状はどうしたらいいのか手探りの状況なのでしょうね。これからeスポーツが認知されていけば、システム整備が行われると期待しています

eスポーツが盛り上がれば、ビジネスチャンスも広がる

イベントや大会が盛り上がり日本でもeスポーツの機運が高まれば、関連するビジネスに注目が集まりそうだ。

プレーする際に必要なパソコンやモニターはもちろん、マウスやキーボード、ヘッドセットといった周辺機器。長時間ゲームしても疲れないゲーミングチェアなどの開発・販売もある。

さらにプロのゲーマーには普通のスポーツと同じようにトレーナーが付き、体調面の管理をする。チームであれば全体の精神・肉体面をフォローするマネージャーも大切な存在だ。大会には実況者や動画作成者なども必要。eスポーツが広がるに連れ、関連ビジネスで起業するチャンスも増えていく。

日本でのプロの定義はまだ曖昧だが、すでに企業とスポンサー契約を結んで活動を行っている人も出てきている。一定の条件を満たせば、日本eスポーツ連合からプロライセンスの発行もされる。しかしまだまだ障害が多いと言える。

「Jリーグやプロ野球と違って、eスポーツのビジネスモデルは整っていません。それこそが認知度の低さと業界が拡大しない原因のひとつでもあります。例えばプロになりたいと思ったとしても、その道筋が一般には浸透していません。だからこそ、今後発展していくためにも、『eスポーツ』という冠のついたイベントや大会を各地で地道に行っていくことが重要だと思っています」と板川さんは熱く語った。

最終目標は、eスポーツが“当たり前”になること

気になるのは、eスポーツがオリンピック種目になるかどうかという点。2020年に行われる東京オリンピック・パラリンピックの新種目に選ばれれば、一気に競技人口の増える可能性もあるが…。

「格闘技ゲームなど暴力表現を含むものは、コンプライアンス的に難しいでしょうね。サッカーや野球といったスポーツゲームならあり得るかもしれません。ただそこにも著作権の問題が出てきます。サッカーそのものに著作権はありませんが、それをゲーム化したら使用に際して開発元の許可がいります。みんなが普通のスポーツと同じようにプレーするためには著作権放棄が必要ですが、それが可能かどうか。難しい面があるでしょうね」。

課題はあるが、パラリンピックなど身体に障害のある人にとっては、指先だけで競技できるeスポーツは新たな活躍の場となりうる。将棋や囲碁、チェスなど古典的な競技であれば可能性は高まりそうだ。

「ぼくの目標は、プレーヤーが活躍できる場所を増やすことです。イベントや大会を積極的に開催して、スムーズに運営できるシステムも作り上げていきたい。将来的にはプロリーグができて、『eスポーツが社会的に当たり前になる』そんな環境を整えていきたいです」と板川さん。
もともとの「ゲームを思う存分プレーしたい」という出発点から視野は格段に広がり、今では業界全体を底上げするための活動を目指しているようだ。

日本のeスポーツは、環境が整備されていないだけに、逆の見方をすればビジネス的な可能性に満ちている分野とも言える。競技人口が増えて街のあちこちにeスポーツカフェができ、プロを目指す人が互いに切磋琢磨し合う。バーチャルとリアルの輪が同時に広がっていく近い将来、クリエーターやプレーヤーだけではなく、枠を超えたシーンに新たなビジネスチャンスが多く生まれているはずだ。彼らのゲーム愛は、まだまだとどまることを知らない。

---------------------------------------------------------------------------------

【話し手】
板川 湧来
石川eスポーツサークル代表(金沢工業大学生)

【聞き手】
竹田 太志
ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター
(株式会社クリパリンク 代表取締役)

お問い合わせ

トップを目指す

トップを目指す