#26

2018.08.22

「Iotで創る新しい電力ビジネス
~仮想発電所事業の秘密~」

担当ディレクター:福島 健一郎
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

第26回のゲストは「株式会社i-Spread」代表取締役社長 村井 将則さん。富山県高岡市出身。1998年に21歳で創業。WEB掲示板やネットショップ、サイト管理システムなど、インターネットを使った開発事業を行い、10年ほど前からはEMS(エネルギーマネジメントシステム)の開発に注力している。

福島ディレクターより 「点在する小規模な再生可能エネルギー発電や蓄電池、燃料電池等の設備と、電力の需要を管理するネットワーク・システムをまとめて制御する仕組みである仮想発電所=VPP(Virtual Power Plant)。  
これからの持続的な開発を目指していくためにも、そして再生可能エネルギーの利用を拡大していくためにも、このVPPはとても大事な技術です。全国でも珍しいこのVPPの事業に取り組む株式会社i-Spreadの村井さんをお招きした今回のお話、ぜひご覧ください。」

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強みを生かした挑戦、「EMSの開発」によって宮古島市の実証事業に採択

近年、電力の自由化や、電力に関するシステム改革、環境問題などの観点からも注目が高まっている「VPP」。現在、沖縄県宮古島市では、2017年から村井さんがシステム開発に携わっている「VPP」の実証事業(「再生可能エネルギー」を活用し、将来に亘って地域主体によるエネルギーマネジメントシステムの運営が可能か否か)が行われているという。「VPP」とは一体どのようなものなのか、まずは村井さんの経歴についての説明からこの日のトークはスタートした。

「私が富山県高岡市で自宅を事務所として創業した頃は、『Windows98』が発売され、iモードやインターネットプロバイダーなどによって、インターネットの普及率が一気に高まっていた時期でした。創業当時から、インターネット関連のプログラムの開発やシステム構築を行ってきて、今でもそれは変わっていませんが、10年ほど前からは、それまでのWeb技術やインターネットのインフラを活用して、エネルギーの情報を管理する仕組みづくりに携わるようになりました。

具体的には、2008年からEMS(エネルギーマネジメントシステム)の開発を行い、『どれだけ電力を使ったか、どれだけ節約できたか、あるいはどれだけ節約できるか』という診断をはじめ、電力だけでなく、石油やガスなどエネルギー全般を管理し、二酸化炭素の排出量を視覚化する取り組みなども行ってきました。

そのなかで本日ご紹介する『VPP』という仕組みは、昨年から取り掛かり始めている、宮古島市(沖縄県)の実証事業でも採択されており、現在もそのシステム開発に携わらせてもらっています」。

創業当時から培ってきたシステム開発や構築技術を生かし、現在も大きなプロジェクトに携わっている村井さん。果たして、その技術や仕組みは、「電力」という分野でどのように活用されているのだろうか。

電力の新しい世界「VPP(Virtual Power Plant)」と、
将来のビジネスについての可能性

「まずは、発電の仕組みからその概念を簡単に説明しますと、例えばある地域において、安定して電気を供給し、使用するためには、時間帯ごとに『使う電気』と『作る電気』の量が、ぴったり同じである必要があります。この使う電気と作る電気を同じ量に調整することを『同時同量』といい、このバランスが崩れると電気が不安定になったり、最悪の場合には、地域全体が停電になったりしてしまうのです。

また、2011年の震災以降は、原子力による発電はその多くが稼働を停止し、一時電力の不足が叫ばれていましたが、現在では火力発電によりきちんと補えています。
しかしながら、火力発電が増えることによって、CO2や燃料コストの増大など、持続するにあたっての問題が発生してしまうのも事実です。

よって、これらの問題に対して、環境に優しい『再生可能エネルギー』=水力、風力、太陽光などの、自然エネルギーの促進が日本はもちろん、世界各地で進んでいるというわけです。

そのなかで、『太陽光エネルギー』に着目すると、確かに環境には優しいのですが、発電の面では少し課題があります。それは、日射量によって発電が左右され、太陽が出ている時だけしか発電できない=成り行きで発電する、という特徴があります」。

続いてスクリーンには、電気の供給量と需要量がグラフ化され、そのバランスを均一化することで電力の安定につながることなどがわかりやすく説明された。

「この太陽光の発電量の波(不足分)を、火力発電で補うわけですが、それらを調整するためにはコストが多くかかってしまったり、あるいは反対に、供給過多が起きて発電停止が起きたり、太陽光発電に関する新たな設備投資が抑制されてしまうなどの問題が出てくるのです。

そこで需要と供給のバランスを合わせるために、これまでは供給(発電量)で調整していたのですが、需要(使う量)を調整しようという考え方が台頭し、家庭や工場などを含む複数の需要家側エネルギーリソース(発電機、蓄電池、可制御負荷機器等)を管理するネットワーク・システムをまとめて制御できる仕組み=『VPP』が実現し、注目を集めているのです。2017年には経済産業省によって全国で35社のVPP事業者が認定されています。

しかし、まだ事業化には課題も多く、調整するための制御機器の大量普及(例:北陸エリア=110万世帯のうち5%に普及させる場合でも5万世帯に及ぶ)や、他の調整手段と比較した場合の優位性などを踏まえると、ビジネスとして実現するには、もう少し時間がかかると思われます。

そんな背景もあって、宮古島市の実証事業は弊社にとっても非常に有効な事業だと考えています。電力会社で恒常的に赤字を計上している『離島』において、まずは小規模から実証を行っていくことで、ニーズと実現性が高まると思います。具体的には、『起動・停止時の燃料ロス』や『臨時発電』などの無駄に対して、エコキュートや蓄電池の需要をシフトし発電効率を高める制御を行うことで、コストを削減できると考えています。

弊社は、VPP事業者に対して、制御するための仕組みやシステムを開発し、サービス提供を行っていくのですが、現在行っている実証事業でも、電力会社や家庭、行政が関わっていて、これらが仕組みとして本当に効果が出れば、将来的には規模を大きくするなどして、他のエリアや本島にも展開していけると考えています」。

このサービスの展開によって村井さんが目指す3つのメリットは以下の通り。
・エネルギーコスト削減
・CO2排出量削減
・国際4競争力強化

  

従来のスタンダードから発想を変え、需要を調整することで電力供給の安定を図り、現在その仕組みの中心となっている「VPP」。

村井さん曰く「ビジネスとしてはまだ時間がかかる」とのことだが、ここまでの説明を聞くと、地球温暖化の対策やコスト削減において期待が持てそうだ。

なぜ「VPP」なのか? はじめたきっかけとモチベーション

ここで、ディレクターの福島さんから、「VPP」をはじめたきっかけや、現状でのビジネスの可能性などについていくつか質問され、事業の進め方を含めて村井さんが続けて語ってくれた。

「20年前に個人でプログラマーとして起業し、人を集めて開発の規模を大きくしてきたわけですが、自分たちの特化した技術やアイデアを価値にして、収益が得られないかをずっと考えてきました。
自分たちが得意な分野で、自分たちならではの技術やサービスを作りたかったのだと思います。
そんな思いを胸にいろいろな開発を行ってきたなかで、2年前に宮古島のVPP事業の公募に出会いました。
何より重要だったのが、この公募は、システムの請負開発ではない為、自社サービスとして他で展開してもよい、という条件でした。これこそが、応募する大きなポイントとなり、リスクはあったのも事実ですが、それ以上にチャンスと捉えて、ぜひ挑戦したいとの思いで提案に取り組んだところ、無事に採択されました」。

しかしながら、システム開発だけでは、ビジネス化はもとより、宮古島市の実証事業も実現できないという。そこには各所の理解や協力が不可欠なのである。

実はVPPのシステムを作っても、それを利用するVPP事業者がいないと意味がないんです。さらに電力会社との連携を取ったり、各家庭に対する普及を行ったりすることが必要なので、自社だけでは実現できない事業なのです。

離島というのは市場としてもニッチで、大手にとっては、ビジネスの規模としては合わない場合もあります。弊社としては、自分たちの体力に見合った投資の範囲内で開発を進めてきたのですが、もっと積極的に資金調達をしてやっていれば、よりスピード感をもって開発が進んでいたかもしれません。

しかし、先ほども申し上げましたが、例え資金調達をしてガンガン進めたとしても、まわりが同じ速度で付いてこないとビジネスとしては成立しないんです。各事業者が協調して一緒に進めていかないと、意味がないのです。

『VPP』事業は、現時点ではまだ各事業者が独自の考えや自分たちに合った展開を模索している段階で、利益化しているというよりは、情報交換や共有をして、さまざまなことを検討している状況です。

弊社としても、昨年が『開発フェーズ』。そして今年は「普及フェーズ」です。導入を進めその調整効果がわかれば、宮古島の発電にとってどれくらいのコストメリットがあるかが見えてくると思います。その結果をきちんと出して、これから3か年でビジネスとして成り立つことを目指しています。1つの地域で効果が出れば、他のエリアでも同じような効果を期待できると思いますので。

ビジネスモデルとしては、最終的にはVPP事業者に対して、自社の商品として提供し、利用料をいただくことを主に考えています。そうすることで、調整の効果や実際の計測データが貯まるため、より効率を上げていったり、ロジックを見直しながら改善もしやすいと思います。

「VPP」が普及するためのカギは、ビジネス=事業性にこそある

最後に村井さんは、これから「VPP」が普及していくために必要な条件や、今後の展開についても話してくれた。

「そもそも『VPP』というのは、『自然エネルギーの促進』の取り組みとして、国が先導しているものなのですが、実際に動くのは民間なので、そこにはコストメリットや事業性がないと実現は厳しいと思います。
私の感覚的な話ではありますが、『制度』や『補助金の取り組み』というのは、方向性をつくるためには重要だと思うのですが、それを実際に加速させるためには、やはり『参入したい』と思わせる事業性のあるビジネスモデルを確立することです。
それこそが、一気に波及して広がっていくカギだと思います。

実際に利益が出るかは別としても、そこでコストがいくら下がったなど、何らかの数字が少しでも見えてくれば、他のケースに対してもいろいろ試算ができるようになります。それによって、それぞれの会社が、自社の事業として参入しようと動き出せば一気に普及が進むと思います。
そのためにも最初の成果を、現在携わっている実証事業で、ぜひ出したいと思っています」。

大いなる可能を秘めた「VPP」という新たな仕組み。IoTの進化もあり、再生可能エネルギーの発電量を増やしたり、離島の生活水準の向上や、地球環境に対してもその効果が期待される。

そして、それはわれわれにとっても他人事ではなく、次世代のエネルギーや、その転換期にむけて社会は確実に動いている。新たなエネルギー社会においても、発電効率に伴ってコストや電気料金は左右されるであろうし、国際的な取り組みも日々変化していくであろう

近い将来、エネルギー自給率の向上や、再生可能エネルギーの利用拡大を牽引するかもしれない、宮古島市の実証事業の今後の成果にも注目したい。

話し手
村井 将則(株式会社i-Spread 代表取締役社長、有限会社C-RISE 代表取締役社長)

聞き手
福島 健一郎(ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、アイパブリッシング株式会社 代表取締役)

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