#22

2018.04.23

「プロのパイロットに聞くドローンのあれこれ」

担当ディレクター:竹田 太志
最近ではすっかり身近になった「ドローン」ですが、実は知れば知るほど奥が深いのです。中条さんのお話を聞いて、業界の動向や今後のビジネスの可能性についての視野が広がりました。

第22回のゲストは「goowa株式会社」代表取締役 中条 忍さん。

高校卒業後に土木建築会社へ就職、インターネット関連会社へ転職しHP制作の実務などを経て、2009年6月にgoowa株式会社を設立。グラフィックデザイン、HP・動画制作、スマホアプリ・ソフト開発、Webコンサルティングなどを幅広く手掛け、最近ではドローンを使った映像制作やロボット事業にも力を注いでいる。
・スマートフォンアワード2011最優秀賞受賞
・2011ポスターデザインコンテスト優秀賞受賞
・プロジェクションマッピング国際コンペティションオーディエンス賞受賞

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異業種からの転職、そして起業までの道のり

高校卒業後、建設業界に就職した中条さん。1年近く経ったある日、親方から尋ねられた「年をとってもこの仕事を続けるのか?」という一言がきっかけとなり、転職を決意。世間で急速にパソコンが普及しはじめるなか、「何か面白いことをしたい」という一心で、まったく畑違いのIT業界へ方向転換し、様々なプロジェクトに携わりながら経験とノウハウを積み上げてきた。

「僕がIT業界に入った当時(1996年頃)は、県内はもとより名古屋にさえ『ホームページの制作技術』を教えてくれる学校はありませんでした。全国的に見ても、東京や大阪に数校あった程度です。そんな状況の中で、ちょっと強引な自己アピールも功を奏してか、インターネット関連の会社にアルバイトとして入社しました。そこから猛勉強して2年ほどで(1998年)正社員になり、多くのホームページ制作に携わりました。その後4年間ほど紆余曲折があり、結果的には社内での意見の相違から辞職を決意しました」。

これをきっかけに、中条さんは独立を志し、海外で再び異業種を経験した後、IT業界へ復帰を果たす。

2002年、単身で上海へ中華料理の修行に行くも、半年ほどで挫折し帰国。
その後は県内外のIT企業をいくつか渡り歩き、2009年6月、それまでの経験と人脈を生かし、ホームページ制作とプログラムの両方をサポートできる会社として、goowa株式会社をスタートさせたのだった。

「当時は県内外を見渡しても、CG、プログラム、Webマーケティングまでを一手に引き受ける会社はほとんどありませんでした。ですので、差別化を図りながらこれまで培ったノウハウ(強み)を発揮できると思いました」と中条さん。
その翌年2010年には「ドローンフライト」を開始。機体の性能や技術の向上によって、近年でこそ仕事につながっているが、始めた頃はあくまで趣味の延長だったという。

誰も見たことのない景色。安全に対するプロとしての責任

「カッコよく言うと、『誰も見たことのない景色を撮りたい!』という思いが、ドローンを始めたきっかけです」。

会場のスクリーンに、ドローンを使った動画が紹介され、ドローンフライトを始めたきっかけを聞かれた中条さんは、さらにこう続けた。

「これからドローンを始める方に言いたいのは、実はドローンを飛ばすには、本当に多くの知識とノウハウが必要だということです。

まずは『安全性』についてのノウハウ。そのノウハウを補うため、機器(機体)がなぜ飛ぶのか、その理解と知識が必要になってきます。また、飛ばすためには、外的要因がたくさんあるので、(天気図を読んで)『気象状況』を読むことも重要で、それに応じてフライトの『場所』、『時間』、『方向』を決めています。

さらに高地では『気圧』も考慮します。周りの気圧が低いと、上空でドローンにかかる気圧も低くなるため、少しのレバー操作で、予想以上のスピードで上昇・降下が起こりうるからです。そのためプロペラを変えるなど、環境に応じてあらゆる設定を考えています。

加えて、『カメラを扱う技術』も必要です。プロとして撮影を行う以上は、ISOの設定などを理解していないと、夜間の映像などはうまく撮れません。フィルターも同様です。
つまり、安全性、機体、気象、環境、撮影技術、あらゆるすべてについて理解することが大切になってきます。
何より『安全に飛ばす』ということが大前提で、それができない限りは、ビジネスとしてはやらないほうがいいと思います。

厳密に言うと、金沢市内のほとんどのエリアが、法律で飛行禁止区域に該当します。ビジネス、ホビーを問わず、墜落や事故の発生によって、規制や法律が厳しくなっていることも事実です。よって、法律や申請についての理解もとても重要だと思います」。

誰も見たことのない美しい景色(映像)、それは、安全性を追求し、豊富な知識を基に綿密に計画された飛行プランと、それを実現できる高い技術によってこそ叶えられているのである。

一瞬一瞬を大切にできる道具と装備を選ぶ

次に、ディレクターの竹田さんから「メーカー、性能、機種」についてのオススメを尋ねられた中条さん。

「世界の9割近いシェアを握る『DJI(ディージェイアイ)』なら、間違いないと思います。ビジネス(空撮)として使うなら、機種は最低でも『Phantom(ファントム)』あたりからでしょうか。機体の高度によって受ける風の影響などは異なりますが、プロペラが大きいほうが飛行は安定しやすいです。ほか、3Dスキャンや農業のセンシングに使う場合は『Parrot(パロット)』というメーカーの選択肢もあると思います」。

やはり用途や目的に応じたメーカーや機種選びが重要になってくるようだ。話題はさらに具体的な操縦方法や装備のことへ進む。

「飛ばしているときは、親指、人差し指、中指をフルに使います。さらにガジェットやウエアラブル(気圧が下がるとアラームが鳴る腕時計)などを活用し、できるだけリアルタイムの情報を収集して飛ばしています。
また、モニターは、飛行している機体となるべく近い目線の位置で確認できるようにしています。手元を見ていると一瞬の判断が遅れるので、リモコンに取り付けるのではなく、自分の目の前に三脚を立て、そこにタブレットをつないでいます。
さらに木や建物が密集している環境などでは、トランシーバーで交信しながら、自分自身の目視に加え、方向を変えた場所からのスタッフのサポートも用意します。一瞬一瞬を大切にして状況判断ができる装備を常に心掛けています」。

まさしく「コンマ1秒」が大きく影響する世界。そのシビアな現実を誰よりも知っている中条さんならではのリアルな言葉に思えた。

ドローンの可能性 今後のビジネスの広がり

撮影だけでなく、近年は「監視」や「物流」としても、世界でその活用法が注目されているドローン。今後さらに進化していく分野や業種はあるのだろうか。2017年2月にロボティクス・ドローン事業専門の会社(ジー・リリータ株式会社)も立ち上げた中条さんが、新たなビジネスの可能性について語ってくれた。

「それぞれの業種で『撮影』以外にも、今後の活用法はいろいろ考えられます。例えば農業や害獣駆除、これら2つを+αして、『農作物の盗難防止』=『検知』や『監視』にも使えます。政府のロードマップでは、『2018年頃から無人地帯での自動飛行を可能にしたい』とあり、『2020~22年には、有人地帯でも自動飛行を実現させる』と謳われています。また、業種を問わず、周辺産業も盛り上がってくると思います。ドローン関連の産業で、2020年頃には市場規模は1400億円を超える(2015年と比べ9倍ほどになる)予想がたてられています。

僕の会社も、今はまだ動画撮影の依頼が多いですが、今後は自然エネルギー発電のインフラメンテナンスなど、『監視・計測』業務的なものが確実に伸びてくると思います。夜間でもサーマルカメラを活用し、撮った映像をクラウドに上げて、検知させるという仕組みです。従来はセンサーの設置でしたが、今後は『移動できるセンシング』に発展していく可能性が大いにあり、そこにビジネスチャンスがあるはずです。

逆に言うと、今から動画撮影(空撮)だけでは、ほとんど新たなビジネスにはならないと考えています。4Kや8Kなど画質の規格や、クライアントの要求もどんどん高くなり、それに応えられる高い技術や編集機材も必要になってくるでしょう。つまり、映像系の分野では、選ばれる人が決まってくると考えられ、ビジネスとして成立できる幅(需要)は狭まると思います。そういう観点からも『センシング』という分野がおすすめです」。

さらにドローンを使った新たなビジネスをテーマにした興味深い話が続く。

「また、これはあまり言いたくないのですが、実は、世界の6~7割は、発電所をもっていない国だということです。つまり、自然エネルギーの発電所が、今後、世界中で増える可能性がある、ということなのです。

カンボジアでは、国(政府)をあげて、太陽光発電を増やそうとしています。その『インフラ メンテナンス』を行える『技術・ノウハウ・仕組み』を持っていれば、それを新たに海外へ輸出するビジネスになるというわけです。モノを作って輸出入を行うより、関税がかからない分だけ儲けは増え、さらには世界の7割がマーケットになる可能性がある、ということなのです。自然光エネルギーの企業に向けたメンテナンスなど、周辺ビジネスにおいて成り立つ分野が確実に増えると思います。

建築の分野では、工場の動線や電磁波の計測、クラック(ヒビ割)や雨漏りの発見なども、足場を組まずに、センシングを行えますし、農業での使い方も進化しています。例えば、今までは衛星で行っていたこと(肥料散布と状況観測)も、ドローンで代用する時代になってきています。
自動飛行技術が進んでくると、遠隔地からでもボタン1つで『飛行、撮影、データ収集、センシング』を行える時代になるのです。きっとまだまだ多くのチャンスがあるはずです」。

まさに次世代に向けたビジネスとしてのドローンの活用法であり、地球の環境や未来につながる新たな可能性を感じさせる内容だ。自身の経験値から生まれたであろうニーズの捉え方や、考え方には説得力がある。時代に先駆け、「ドローン」に情熱を捧げてきた中条さん。彼の視野は、まるで空撮をしているかのように、先を見据えながら、俯瞰しどこまでも広がっているのだろう。

話し手
中条 忍
goowa株式会社 代表取締役

聞き手
竹田 太志
ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター(株式会社クリパリンク)

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