#20
担当ディレクター:久松陽一
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、新産業の創出へのキモチとモチベーションアップを目指す、モチモチトーク。
2018年3月13日、第20回は、「編集者からみた、最近の◯◯」。
聞き手は、久松陽一ディレクター。
「カラフルカンパニーさんが、名だたる地元企業を押さえて、マイナビ2018 年就職企業ランキングで6 位を獲得した理由がわかりました。『働き方改革』はもちろんのこと、若手社員の『やる気』を引き出す仕組みがそこにありました。」
地元の暮らしをカラフルに
團野智典さんは、宅配型フリーペーパー「金沢情報」で知られる株式会社カラフルカンパニーで、「家づくりナビ」「結婚SANKA」「週末、金沢あそび。」「金沢ラーメン案内」「Lunch Fan!」といった、金沢暮らしに役立つさまざまな専門情報誌を手掛ける若手編集長である。出身は福井県福井市。2007年、新卒採用で現職場に入社し、入社5年目にして住宅雑誌「家づくりナビ」編集長に就任。入社8年目にはマネージャーとして部下を持つようになり、複数の雑誌の編集長を兼務しながら、社内ベンチャーとしてコンシェルジュ事業「ココカラ。」やウェブサービス「週末、金沢。」といった新規事業も立ち上げている。
カラフルカンパニーは石川県を本社に、富山、新潟、福井、高岡に事業所を持ち、編集・出版事業をメインに、コンシェルジュ事業、インターネット事業を手掛ける、社員数165名の出版社。「地元の暮らしをカラフルに」をミッション(使命・存在意義)に掲げて、1983年の設立以来、地域と生活に寄り添った情報を発信し続けている。
「僕自身、会社のミッションである『地元の暮らしをカラフルに―生活情報の虹で人と企業をつなごう。暮らしをカラフルに彩ろう―』というこの言葉が好きです。よく考えると深いんです。情報を介して、どうやって人と企業をマッチングしていき、市場を活性化したり、暮らしを豊かにしようかということを日々考えています。」
カラフルカンパニーでは「情報弱者をつくらない」というミッションも、持っているという。
「これも我々は共感しています。社員はそれぞれ、自分なりに解釈をしながら日々の仕事に取り組んでいると思います。」
これらのミッションは、新規事業を立ち上げる際にも、あるいは編集方針を定める上でも、最も重要なものだというのが團野さんの考えだ。
「思考のベースになっています。ミッションが達成されないなら、やらない方がいい。自社の利益を優先しても、結局、事業として存続できない。カスタマー、クライアント、僕たちそれぞれが、価値を提供できる状態をつくっていくことが大事だと思っています。」
この媒体で何をしたいのか
食、遊び、結婚、家づくりと、カラフルカンパニーが扱う情報は、人の生活に密接なものだ。だからこそ流行に左右されやすい。中でもブライダル雑誌は、もっともトレンドに敏感な20、30代を対象としているため、情報の編集において時代の波を知ることが重要になってくる。「結婚SANKA」も、團野さんが編集長に就任した当時、時代の変化の中で、岐路に立たされていたという。
「僕が編集長になった時はすでに創刊から24年間経っていて、『定型』みたいなものがあったんです。内容としても、ライバル情報誌とほとんど情報が変わらない。けれど、知名度でいうとライバル社さんの方が高い。売り上げは下がる一方、そういう時に編集長に就任しました。」
ライバル社と同じ情報では自分たちの雑誌の存在価値がない。自分たちの存在意義はどこになるのだろう。考えた末に團野さんが立ち戻ったのが「地元」だった。カラフルカンパニーのミッション「地元の暮らしをカラフルに」の精神に沿ったとも言えるだろう。
「地元で編集をやっているから、地元の人たちに会ったり、地元の人の声を聞くことができるんです。インタビューや電話取材をして、地元の女性たちの声を拾うことをはじめました。電話取材では、みなさんすごく丁寧に答えてくれたと聞いています。一番多かった声は『結婚式は大変だった』という声。『だからこそ、これからの花嫁に自分の経験をいかしてほしい』と協力してくれる姿勢には、とても感動しました。」
1人1人、1本1本、想いを説明してインタビューするという地道な作業。取材する側の労力は想像を超えるものだろう。しかし、結果、得たものは大きかったという。取材を通じて見えてきたのは、女性たちの、結婚式に対するリアルな姿勢だった。
「女性って、結婚式にあこがれを持っていると思っていたんです。でも、本当はもっと現実的なんです。例えば、チャペルで羽が降ってくる演出を見て『きれいだな』と思うのではなく『あれっていくらかかるんだろう』って考えるんです。そもそも僕も、ブライダル雑誌は、外国人がガーデンパーティしている写真をつかったりして、夢を見せる業界だと思っていたんです。けれども僕らは日本人だし、北陸の人です。正直、『ギャップがあって、イメージできません』というのが本音なんです。実際にできたとしても、すごく高いんじゃないかという不信感もある。だからこそ、僕らは、自分たちが満足できるような結婚式の意義を提供していこうと考えました。」
ライバル誌は若者向けの結婚情報を提供するのが得意だった。ならば、自分たちは地元のリアルを追求していこう、そう編集方針を立てたという。そして、これまでの定型から誌面をがらりと変え、北陸で実際に行われた結婚式のレポートを載せたり、お金のかからないソフトのサービスを提案したりと、新たな「結婚SANKA」を作っていった。その結果、実売部数が向上し、式場とのマッチング数も向上するなど、結果が目に見えて変わってきたという。さらに、ユーザー同士での口コミが増えたというのも一つの大きな成果だった。
「リニューアルし、地元のリアルな情報を伝えるようになってから、『私これを使ってよかったし、おすすめだよ』というような口コミが拡がるようになりました。北陸で仕事をするうえで、口コミってやっぱり欠かせないんです。住宅でも、紹介で成約に結び付く例が3割あったりするほど、都市圏と比較して北陸の人のネットワークはすごいんです。」 共感を得るからこそ、購入につながる。情報という、移り変わりやすいものを扱っているからこそ、流されないための足場を築くことが大事なのだろう。
「世の中、価値観はどんどん変わっていきます。だからこそ、編集する時に、『この媒体で何を大切にしたいのか』をいつも決めています。」
ところでカラフルカンパニーでは、メディアとして情報を発信するだけではなく、コンシェルジュサービス「ココカラ」として、実際に人を配置し、人と人で向き合って情報を提供するサービスを行っている。「ココカラ」では、縁結び、ウエディング、転職、家づくりのコンシェルジュを行うため、例えば「ココカラ」をきっかけに出会った二人が、結婚し、家も建てるという流れも生まれる可能性がある。
「できるだけ親しみやすいメディア、ブランドを意識しています。けれども、どれだけブランディングしても、媒体として、価値観や哲学がないとうまくいきません。みなさん、すべてに対して、計算して取捨選択しているわけではない。直観だったりしますよね。だからこそ、感情に訴えかけることが大切なんです。ブランドを作るためには、そのもとになる哲学や考え方が重要で、その考え方に共感できるから人はファンになる。人がファンになるからブランドになるんですよ。」
弱いリーダーであること
カラフルカンパニーは、北陸地方のマイナビ2018年就職企業人気ランキングで6位を獲得した、学生に人気の高い企業である。売り手市場と言われるなかでその地位を得た理由は何なのだろう。まず挙げられるのが、かつては「不夜城」とも言われた出版業界でありながらの、残業時間の少なさだろう。
「みんな19時くらいには帰宅しています。遅くても20時になれば誰もオフィスにいません。時短勤務も認められています。うちは外部のライターに委託することなく、すべて自社内で一元化し執筆、編集しているから、それが出来ているのかと思います。」
ランチ会、会社の所有する五箇山の合掌造りの家での研修、LA研修などのイベントに加え、部署を横断してビジョンを話し合ったり、記事についてのフィードバックを行う機会も用意されていることも、魅力的だ。加えて、新規事業立ち上げに柔軟というのも印象深い。
「僕たちの会社も、情報以外に、何か資産があるわけじゃないですし、人による振れ幅は大きいですね。人が財産だということは痛感しているので、新卒採用はプロジェクト化して横断的に取り組んでいます。」
最近では新卒採用にも携わっている團野さん。自身が就職活動をしていた頃とは、学生の求めるものが変わっていると感じるという。
「今の学生さんは内に秘める闘志が強いですね。社会貢献したい意識が強いです。だから、ビジョンがしっかりしている会社を支持するんだと思います。面接をしていても、『ビジョンに共感しました』とか、『事業への価値観が同じでした』とか言われることが多いですね。」
しかし、ビジョンや価値観という、ある意味で漠然としたものへの共感は、入社後のリアルに対して、ギャップを生むことはないのだろうか。ビジョンには共感していたけれど、実際働いてみると想定と違ったというような。
「きっと、ギャップはあります。働いている人の価値観もそれぞれですから。でも、ビジョンなり、共感しているベースが同じだから、そのうえで成り立っているものや行動が別々でも、最終的には折り合えるんです。かつてアップル社の低迷期に、『アップルユーザーは、アップル製品は故障するけれども、アップルの考え方が好きだ』という、だからその部分を強くしていこうとブランディングしたというのは有名な話です。情報が多い中で取捨選択するということを考えると、ビジョン、共感するベースとなる部分をしっかり打ち出していくことが大切だと思います。」
時に改めて立ち戻り、自分に問いかけるもの。だからこそ、ビジョンはシンプルであるべきだと團野さんは語る。
「いろんな経営者の方とお会いすることがありますが、みなさん、成功の秘訣はシンプルなんですよね。『人に会いましょう』とか『嘘をついてはダメだ』とか。シンプルだからこそ、深い。もちろん具体的な戦略も大事ですが、まずはシンプルなビジョンが必要なんです。」
最後に、人の上に立つ中で大事にしているのはという質問にこう答える。
「弱いリーダーであることです。昔のリーダーと言えばリーダーシップが強く、トップダウンで決めるという形だったかと思いますが、そのカタチも変革する時かと思っています。今は価値観も多様化しているので、一人のリーダーがダメになると、会社や事業全体がダメになったりする。いろんな意見を戦わせてつくっていくほうが良いし、その方がみんなも当事者意識が出ます。そして何より楽しいんです。」
人の数が減り、働き方が多様化している現代では、かつてのように縦組みの組織ではなく、横断的なチームが会社組織に求められはじめている。團野さんの編集チームの魅力は、團野さんが「弱いリーダーであること」というように、チームの全員にとって、自分の色を輝かせるチャンスがあることにある。そうして、きちんと発色した個がつながり混ざりあうからこそ、カラフルでたくましいチームが生まれるのだろう。
話し手
團野 智典 株式会社カラフルカンパニー 編集長
聞き手
久松 陽⼀ ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター
(株式会社 Hotchkiss)
文
鶴沢木綿子