#07

2017.08.29

若手ベンチャーが挑む「地域電力構想」という夢

担当ディレクター:村田 智
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

2017年8月29日、第7回は、「若手ベンチャーが挑む『地域電力構想』という夢」。
聞き手は、村田智ディレクター。

村田ディレクターより
「石川県初の電力会社。”大きな資本がないと電力会社の運営は無理だ”と、通常足踏みしてしまうところを、同社は逆手にとらえてITインフラを駆使し、中心メンバー3人という体制で実現させてしまった。」

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ナンダ、新電力、2017

電力自由化。新電力。2011年の震災以降、エネルギー、特に電力に対する人々の意識は大きく変革し、これらのキーワードも随分と耳にするようになったと言えるだろう。
一方で、例えば「わが家は、新電力を使ってます」というリアルなフレーズは、オール電化とか、エコ住宅みたいなことよりはずっと聞くことが少ないように思う。電力が自由化したことによって各地で新電力会社が増えているらしいとはいえ、じゃあどんな会社があるのかと問われると答えに窮してしまうし、そもそも、新電力って新しい電力?自由化って?と改めて考えてみると、頭の中でクエスチョンマークが並ぶ。

そんな、まだまだベールに包まれた新電力。その新電力が多く誕生するきっかけとなった電力小売り全面自由化が実施された2016年、ここ石川県にも一つ、新電力会社が新たに産声を上げた。
その名も「石川電力」である。

石川電力の取締役、堀敬亮さんは、1980年石川県野々市市生まれ。小中高と県内で過ごし、大学で県外へ。その後、三菱電機グループやリクルートグループに勤務。営業及び人材育成に携わる。そして、電力小売の全面自由化に伴い、自身の地元である石川県に貢献できる電力会社をつくろうと志し、2016年9月石川電力株式会社を設立する。

さて、堀さん。そもそも、電力自由化、新電力とは何なんでしょう?

「まず、電力会社というのは、大きく3つに部門がわかれます。『発電事業』『送配電事業』、そして『小売り事業』です。このなかで発電部門は最も早く、1995年に自由化しています。また、小売りの中でも、高層ビル・大型デパートなど『特別高圧』といわれる部分は、2000年に自由化されました。また、中工場などの『高圧』といわれる区分も2004年、2005年と、段階的に自由化しています。そして、一般家庭や事務所、お店などにあたる『低圧』区分が、2016年4月に自由化されました。これをもって電力小売り全面自由化といわれます。」

これまで、低圧区分にあたる、家庭や商店向けの電気は、各地域の旧一般電気事業者のみが販売できるものであり、一般の消費者は電気をどの会社から買うか選ぶことはできなかった。
それが2016年、電気の小売業への参入が認められたことにより、既存の大手電力会社とは別に、特定の事業者が電力を販売できるようになる。この事業者が「新電力」と呼ばれるものである。現在、新電力会社は全国で約400社あるといわれており、石川電力もそのうちの1社である。

堀さんは、電力自由化のメリットは概ね3つにまとめられると紹介する。

まず1つ目のメリットは「プランの自由度」。
「消費者は生活に合ったプランを選んだり、使いたい電源を使用している電力会社を選んだりと自由度が高まります。」

2つ目のメリットは「電気使用量も見える化に」なること。

「新電力に切り替えるにあたり、スマートメーターの設置が必須なのですが、スマートメーターが導入されれば、家庭でも電気の使用状況を把握することができます。ゆくゆくは、どの家電がどのくらい電力を使っているかも見えるようになる可能性があります。レコーディングダイエットのように、数字を『見える化』すると、節電がしやすくなります。」

そして、3つ目は、「市場の拡大」。

「自由化に伴っていろいろな分野の会社が電力市場に参入してきます。そのことによってサービスの拡大が予想されますし、皆さんの生活に役立つものも増えていくと思います。」

一方、デメリットは2つ。

1つ、「わかりにくいプランの乱立」。

「今すでに新電力会社は400社あります。それだけプラン数があるので、保険と同じように、どれが自分にあったプランなのか、消費者が選びにくくなっています。」

2つ目は、「中小企業の倒産」である。競争が激化することにより中小規模の小売電気事業者は価格やサービスで大手に勝てず、倒産する可能が出てくる。

「契約していた会社が倒産しても、自動的に北陸電力さんなどの電気会社に切り替わるので皆さんに直接リスクはないですが、契約している会社がなくなるという点においては、デメリットといえると思います。」

ところで、この電力自由化の背景には、政府の、世界的に見ても高額な日本の電気料金を低下させたい、という思惑がある。

「現在の日本の電気料金は、アメリカの2倍程度です。その理由は2つあります。1つは電気を起こすための燃料。日本は、石炭や天然ガス、石油などを輸入しているため、その分のコストが電気料金に上乗せされます。」

そして、もう1つは、独占市場ゆえの料金設定方法にあるという。

「日本の電気料金は、必要なコストと適正な事業報酬を積み上げ、その総額に基づいて電気料金を決める『総括原価方式』により算定されています。経費がかかるのであれば、その分、電気料金を上げても良いという話になってしまうんです。」

これが新電力となると一民間企業である。低価格、高品質が競争の要になるのは間違いなさそうだ。

「やはり、新電力会社に契約移行すると、基本的に電気料金は安くなる。」 と堀さんもいう。けれども、一言に電気消費者といってもその幅は広い。誰でも同様に電気料金が安くなるというのか。

「ベッド(病院、旅館、介護施設など)のある施設は、安くなりにくいといわれています。これらは前述の『高圧』にあたる物件なのですが、そういうところは年間の料金が、電気を多く使う繁忙期に合わせて決まっています。その金額を年間継続して払うので、繁忙期以外に電気をあまり使ってないところは、すごく損することになります。つまり、改善の余地があるんですね。けれども、旅館やホテルといったところは、契約している範囲でフル活動して電気を使っているので料金が下がりにくいといわれます。」

コンビニエンスストアや日夜稼働している工場も同様だという。
一方、同じ工場でも、昼間しか稼働してない場合などでは、料金が下がる可能性が高いそう。

「それぞれの状況によるので、一概には言えないですが、最近あったケースでは年間で700万円ほどの電気代が40万円くらい下がったという例もあります。全体の5%程度下がったことになります。」

一人暮らしのマンションでもその恩恵にあずかれるのだろうか。

「条件次第では、安くなるプランを用意しています。新電力はかかる固定費を最大限に抑えています。弊社も3名でスタートしていますから、安くなりますよ」

経費は削減されるに越したことはなさそうだが、3名とはなんとも驚きの数である。
石川電力とは一体何を目指しているどんな会社なのだろう。

電気の地産地消が理想

堀さんが石川電力を立ち上げるきっかけは、創業メンバーのうちの1人、長年付き合いのある社長からの声かけにあるという。

「社長とは12年くらいの付き合いなのですが、出会った当時、ソフトバンクがまだ携帯電話市場に参入してないような頃だったのに『ソフトバンクも携帯市場に入ってきて、ゆくゆくは携帯電話も定額制になるよ。そのうち電力市場も自由化になるだろうから、そのときはビジネスチャンスを掴みたいね。』という話をしていました。そういった先見性がある方だと知っていたので、新電力の話を聞いた時も、その時の話を思い出し、またお互いにいろいろと考えているところがあり、一緒にやろうと思いました。」

もちろん、その言葉だけではなく、電力自由化という大きなビジネスチャンスがあった。
しかし、そう簡単には話は進まない。

「電力自由化はビジネスチャンスでしたし、新電力に乗り込むきっかけになったことは間違いないですが、知れば知るほど、特に北陸エリアで電力の仕事となると、リスクも大きいことがわかったんです。」

ある電力自由化に関するWebアンケートでは、北陸の電力自由化への認知度は日本国内10エリア(北海道、東北、北陸、中部、東京、関西、四国、中国、九州、沖縄)中9番目。認知度が低く、それに伴い、新電力への移行も進んでいないという現状がある。
その大きな理由が、北陸の電気料金の安さにあるという。

「北陸は他の地区と比較してずば抜けて電力単価が安いんです。だから県外の大手の会社が参入しても採算が合わないということで撤退していったそうです。」

それでもあえてチャレンジした理由はなにか。

「そのときにあったのが、地元愛ですね(笑)。」
堀さんは語る。

「仕事の関係で、県外で生活をしていた頃、北陸、石川の知名度の低さを痛感していました。また、『地方』というだけで情報が遅れていることがまだある。地元が好きなのに、そんな扱いは嫌だなと。そういうことも含めて、自由化後すぐに地元に新電力を立ち上げようと考えました。」

石川県での年間電気使用料金は1500億円以上と言われている。一方、その電気料金は、本社が富山にある会社へと流れることとなる。つまり、1500億円以上のお金が毎年、県外に流出しているという事実がある。

「僕たち地元の電力会社が参入することによって、ある程度のお金を県内にとどめ、さらにそれを循環させ、石川県を活性化できないかと考えているんです。農作物でいうところの、地産地消が理想ですね。」

具体的には、電気代の一部を積み立て、スポーツ振興や教育、医療、福祉、介護などの分野へ寄付していくことを考えているという。

言いたいけどまだ言えない

小売りといえど、電気という特殊なものを扱う仕事。ノウハウもない中での経営は大変ではないだろうか。 「需給バランスが非常に大事になります。私たちは小売するための電力を調達する必要があるのですが、あらかじめ供給する電力量を把握しておかないと調達できません。国からも需要に対して供給の量を一致させることが義務付けられています。」

電気量の読みを外してしまうと、電圧が変わったり、停電が起きたりと、安定した供給ができなくなる。そこで、大手電力会社と常時バックアップ契約をし、万が一不足した場合は大手電力会社の電気を供給するという体制をとっているほか、独自のノウハウもしっかり持っているという。

「やっぱり値段勝負としても、差別化が図りづらいです。質も変わらないし。だからこそ、サービスだったり、地域性を汲んだプランづくり、石川の活性化。そこに力をいれています。」

もちろん堀さんは、だてに会社を立ち上げていない。そこのところはしっかり抑えているのであった。

「電力だけで儲けるのは正直難しいです。実は、考えていることがあります。でも経営戦略的に今はまだ言えません。時が来たら…」

今、時は2017年。世界情勢、経済、自然現象、さまざまなものが怒涛のスピードで変革していることは間違いない。不思議なことに人間はなんとも順応が上手だから、そんなこんなであっという間に、「新電力っていっても、もう普通だし『新』じゃないわよねえ」という時代がやってくるのだろう。そして、「ほう、堀さんはあの時から、こういう仕組みを考えておられたのか」と唸っちゃうような日も、そう遠くない間に訪れるのかもしれない。

話し手
堀 敬亮(ほり けいすけ)氏
石川電力株式会社 取締役 電力グループチームリーダー

聞き手
村田 智 ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター(株式会社 MONK)


鶴沢 木綿子

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